蕗世、がんばる
かくれんぼ開始から二十分。蕗世は今すぐにでもかくれんぼを終わらせたい衝動に駆られていた。しかし、彼女の中でせめて一時間は頑張ると決めていたので、恐怖をグッとこらえて耐えていた。
彼女が隠れているのは、琉依が調達してきた段ボールの中。人形を置いたトイレからなるべく離れた場所にあるのだが、端から見ると不自然である。
テレビがないので、ノートパソコンからホワイトノイズを流しているのだが、真っ暗の部屋にノイズ音のみというのは想像以上に不気味だった。
今はスマートフォンから絶えず送られる励ましのラインと、霊的なものを一刀両断する有り難い御神刀が彼女の心の支えである。
『陽瑠くんたちはどこにいるの?』
彼女がラインを送れば、すぐに既読がついて返事が返ってくる。
『何かあったときに駆けつけられるように、小屋の外で待機中』
寒いと訴えるスタンプが添付される。童話をモチーフにしたスタンプで、裸の王様が体を震わせている可愛らしい絵柄のスタンプだ。
蕗世も同じシリーズのスタンプを添付する。赤ずきんの女の子が、相手の心配をするスタンプだ。
『みんな元気だから大丈夫だよ!』
そのメッセージと共に、外の様子が画像添付される。
恵理の完璧な自撮りに、飲みサーからの差し入れを嬉しそうに抱え込む陽瑠、気分の悪そうな女性と一緒に写る琉依ーー
「えっ……」
思わず出てしまった声を取り繕うように、慌てて蕗世は口に手を当てた。そして落ち着いたところで深く深呼吸をし、意を決してもう一度画像を見る。
やはり、いる。琉依の背後に、この世のものではない何者かが、はっきりと。
蕗世はひとりかくれんぼの事など忘れて、急いで陽瑠にラインを送った。だがしかし一向に既読がつかない。
どうすれば良いのか良い案が浮かばないまま、彼女はその場で頭を抱えた。異変に気がついたのは、少し頭が冷静になったその時だ。
トントン。トントン。
トイレの方から、ノックの音が聞こえてくる。音はしばらく鳴り響いたあと、今度は何かを物色するように、ガサガサとした音が聞こえてきた。
ゆっくりと蕗世のいる方へ近付いてくる。蕗世は段ボールの中で震えて体を小さくさせながら、音の主が立ち去ってくれることを祈った。
ーーお願い、どっか行って!
蕗世が必死に祈っていると、ちょうどいいタイミングで小屋の外から琉依の悲鳴が聞こえてくる。悲鳴のおかげなのか音の主が遠ざかっていく。そして物音がピタリと止んだ。
スマートフォンで確認すれば、かくれんぼ開始から四十五分が経過していた。
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