亀甲縛りのジュリエット

 受け取った人形に、蕗世は米と自身の爪を詰める。髪の毛も詰めてみようかと提案した蕗世だったが、陽瑠の「危ないから爪だけでいいよ。それに、綺麗な髪の毛を抜くなんてもったいないしね」の一言で却下された。


 流れるように女性を褒める陽瑠の手管に、琉依は心の中で賛辞を送る。それと同時に、どれだけ女性を誑し込んだのか邪推して、考えるのをやめた。


「あとは赤い糸を巻いて、時間が来たら始めるだけだね」


 ちょっと貸してと、陽瑠が蕗世から人形を受け取る。すると彼は、慣れた手付きでシュルシュルと糸を巻いていった。


 完成した代物を見て、琉依が吼える。


「亀甲縛りとか馬鹿じゃねーの!?」


 ジュリエットは実に可哀相な姿に変貌していた。パンパンに米が詰められているせいか、腹から時折こぼれ落ちており、さらにその上から亀甲縛りーーSMプレイで有名なあれだーーをされていた為、惨めな姿に拍車が掛かっていた。


 自分に似ている人形なだけに、琉依は複雑な面持ちでジュリエットを見つめる。


「陽瑠さんすごーい! ねーねー琉依、今度はこういうプレイも視野に入れていきましょ?」


「ちっとも凄くねぇ! プレイに関しては検討させてください!」


「やるなら言ってね。縛り方をレクチャーしてあげるから」


 陽瑠の申し出をやんわり断りつつ、琉依は時計を見た。時刻は午前一時を過ぎており、かくれんぼ開始まで残すところ二時間ばかり。


 それまでは特にすることもないので、四人はゲームをしたりパソコンで動画を見たり、学生らしく真夜中のパーティーをエンジョイした。何かと口うるさい織也が研修で不在だったので、ハメを外すには持って来いの環境だったのだ。


「……そろそろだね」


 時刻は二時五十分。かくれんぼ開始まであと十分に迫っていた。


 陽瑠は最終チェックとばかりに確認作業を進めている。スマートフォンに充電器、御神刀に塩水。


 塩水に至っては、椎音が運良く忘れていった塩があったので、そちらを使わせてもらった。……ジョッキで塩水を渡したのはやり過ぎだと思われたが、怖がりの蕗世にはこれぐらいしても問題ないだろう。


 うっかり忘れないよう隠れ場所に塩水を持って行く。パニックになって塩水を忘れたとあっては、洒落にならない。


「無理そうならすぐに中断するんだよ」


 そう言い残し、陽瑠たちは蕗世を残してプレハブ小屋から立ち去った。程なくして小屋の明かりが落とされる。


 時刻は三時を回ったところ。ひとりかくれんぼ、開始である。

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