鶴木蕗世は怖がりである

 鶴木蕗世は非常に怖がりである。どうしてオカルトサークルに所属しているのかわからないくらいに怖がりである。


 彼女が憑きサーに参加している理由は、怖いもの見たさの好奇心と、何よりも陽瑠が参加しているから。


 今でこそ信じられないが、陽瑠は小学生の頃まで気弱で泣き虫の少年だった。加えて気味の悪い不幸体質ということもあり、友達ができる云々の前にいじめの標的にされていた。


 幼なじみだった蕗世は、学年こそ一つ下だがずっと陽瑠を庇い、守ってきた。剣道を習い始めたのも陽瑠を守る為である。


 そんな感覚が抜けきっていないせいか、例え陽瑠が魔王と恐れられていようと、肝が据わり過ぎて常に動じない男になっていようと、関係なく昔のまま接する。唯一苦手なお化けの類であっても、健気に陽瑠に着いて行く。


「うーん、やっぱり僕じゃ駄目?」


 陽瑠は蕗世に無茶をさせない男だった。そもそも最初はサークル参加ですら反対していた。


 ……忘れもしない一年前。随分と久しぶりに再会した幼なじみが、とんでもない美女に成長していた。外見の変化にも驚きだったが、その彼女がオカルトサークルに参加すると言って聞かなかったのはもっと衝撃的だった。


 お化けが大の苦手なのを、陽瑠は知っていたから……


 生まれて初めて大喧嘩をして、お互いにへそを曲げて、周囲に迷惑を掛けながらようやく蕗世の参加に陽瑠が折れたのだ。


「……やるわ!」


「大丈夫か? 鶴木さん」


 やると言った蕗世の足は震えていた。


「無理しないで良いんだよ?」


「でも、陽瑠くんやってみたいんでしょ?」


「……」


 陽瑠は答えない。実際、やってみたいのは事実だったからだ。


 彼は悩んだ。やってくれるのは有り難いが、やらせたくない自分も居た。言い出しっぺは自分。彼女は付き合って着いてきただけだ。怖がりな蕗世に無茶はさせたくない。


「私が強いの、知ってるでしょ? 御神刀もあるし大丈夫よ!」


 沈黙は肯定だと受け取った蕗世は、陽瑠ににっこりと笑いかける。やんちゃな少女の笑顔に、陽瑠は懐かしさを覚えた。


「……何かあったらすぐに僕を頼るんだよ?」


 陽瑠は蕗世に人形を渡す。中身のない人形が、彼女の手の中でぐったりと力なく揺れた。

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