かくれんぼ、しないか?(2回目)

 そもそもひとりかくれんぼは降霊術ですらないという意見も多い。手順やその終わらせ方が不十分で、非常に未熟な儀式と言われている。


 やってはいけないとされる理由は、儀式の不明瞭な目的と不親切なやり方にあった。


「ここはオカルトサークルだよ? なぜこんなに怪現象が起こるのか、仮説を立てて実際に検証して、そして自分なりの結論を出す! 論文だって検証しなけりゃ机上の空論、誰も信用しないさ」


「検証って言うけど、ありゃ一種のトランス状態に陥った人間が引き起こす幻聴や幻覚って意見もある。"暗所"という条件を指定して、隠れる行為を強要し"閉所"に移動、物音はテレビの"ホワイトノイズ"のみ。あのノイズにゃ集中力を高める効果があるから、より精神をトランス状態に追い込み易い。おまけに不気味なオカルト要素てんこ盛りの下準備……。気がおかしくならねー方がおかしいだろ」


 捲くし立てて話し終えた琉依に陽瑠が乾いた拍手を送る。


「さすが優等生! 見た目の軽さに反するずっしりした知識をありがとう!」


「なあ陽瑠さんもしかして、馬鹿にしてんの? ねー、恵理ちゃんどう思う?」


「わかんなーい」


「琉依くんの意見はもっともだ。ぶっちゃけやる必要がない!」


 ホワイトボードの前で力説する陽瑠は、さながら政策を熱弁する代議士のようだ。彼の熱に押され、蕗世と琉依と恵理の三名は、ガラにもなく背筋を伸ばして陽瑠の弁に耳を傾けている。


 陽瑠の弁に熱が入る。春も終わりかけた五月初旬、過ごしやすい陽気の室内が、少しだけ熱くなった気がした。


「けれど、現在の憑きサーは歴代でも希な霊媒体質が揃っている! ひとりかくれんぼは知名度が高い降霊術で、非常にリスキーな儀式だ! サークル外の学生も期待しているはず! オカルトサークルの名に掛けて、挑戦しない理由があるだろうか? いや、ない!」


「つまり、やりてーんだな?」


「そう!」


「口うるさい織也さんもいないしぃ?」


「イエス!」


「陽瑠くん、好奇心旺盛だもんね……」


「自覚してます!」


 三人は顔を見合わせると、やれやれといった様子で力なく笑う。こうなった時の陽瑠は誰にも止められない。


「しょーがねーな! 付き合ってやんよ!」


「わーい、かくれんぼー!」


「陽瑠くんのお誘いだし、付き合うわ」


 了承してくれた三人に、陽瑠は深々と頭を下げる。なんだかんだ、全員好奇心旺盛なのだ。そうでなければ、こんなサークルに参加していない。


「決行は深夜だね!」


 まずは米と人形、それに赤い糸の調達が必要不可欠だった。まだまだ時間に余裕はある。


 陽瑠たちは夜にもう一度集まる約束をすると、買い出しの為外に向かった。

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