2話「ぼっちでかくれんぼって超虚しいよね」

かくれんぼをしないか?

「かくれんぼをしよう!」


 黄金週間が終わって間もなく、北の端の第四研究所にその宣言は木霊した。


 声の主は逢間陽瑠。この研究所で活動するサークル、憑き物サークルの代表者だ。


 大学生にもなってかくれんぼとはどういうことだ。童心に帰りたくなったのか。いやいやあんた、小学生の時ですらかくれんぼしてそうなイメージがないんですけどーーと、心の中で呟いたのはサークルメンバーの宮比琉依である。


「僕がかくれんぼって、そんなに変かい?」


 にっこりと、陽瑠が琉依に笑いかけた。心の声を聞かれ、琉依の肩が面白いほどに跳ね上がる。「ヒッ」っと声が裏返って発せられ、おかしな声に陽瑠がケタケタと笑った。


「何も今すぐかくれんぼをしようって言ってるわけじゃないよ。やるのは今から半日後さ」


「半日後? ちょっと待って陽瑠くん。それ、真夜中よ?」


 蕗世が据えられた壁時計を指差す。規則正しく回る針は、おやつの時間を示していた。


 琉依が机の上の煎餅に手を伸ばす。バリバリと咀嚼する音が部屋中に響いた。


「あー! もしかして"ひとりかくれんぼ"するの? ねえねえそうなんでしょ陽瑠さん!」


 舌足らずな甘い声で身を乗り出したのは、読者モデルの黒岩エリ改め鬼越恵理だ。


 世間が大型連休に浮かれる中、彼女は多くの仕事を片付けて実に多忙な日々を送っていた。今日は、ようやくまともにサークルに顔出し出来たということもあり、いつも以上に声が弾んでいる。


 ぴょこぴょこと跳ねる度に、豊かなおっぱいが上下に揺れて、自然と視線が縫い付けられた。


 そんなことはお構いなしとばかりに、恵理は陽瑠に詰め寄る。琉依の視線が突き刺さるくらいに刺々しくなったのを、陽瑠は横目で確認した。


「陽瑠さん、ひとりかくれんぼってアレだろ? ひと頃掲示板で話題になって、映画化もされたっていうあの……」


 ーーひとりかくれんぼ。


 オカルト界隈では有名な"遊び"だ。ぼっちでかくれんぼの時点でだいぶ怖い印象だが、それ以上にこの遊びはやっちゃいけない降霊術として名高い。


 まず人形の下準備の時点で嫌な予感しかしない。なるべく人の形に近いものを指定されている点も要注意だ。


 かの有名な呪術、丑の刻参りをご存知の方ならこの人形の下準備の時点でどうヤバいか想像つくだろう。ここには詳細なやり方を載せることはしないが、気になってしまった方は調べれば出てくるのでそちらを参考にしていただきたい。


 もっとも、ひとりかくれんぼの閲覧は自己責任であると明記しておくが……


「そのひとりかくれんぼだよ」


「いや、やる意味わかんねーよ! あれってそのあれだろ? ちょっと怖い体験したーい的な、頭パッパラパーがやるやつだろ? 俺らがこれ以上怪現象体験してどうすんだよ!」


 琉依の意見はもっともだった。


 ひとりかくれんぼをやりたがる人間は、その多くがスリルを味わいたい若者である。ワンナイトスリラー、ゾンビもかくやといった具合だ。常日頃から怪現象と隣り合った生活をしている彼らに、ひとりかくれんぼの必要性は感じられない。

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