読モの恵理ちゃん(鬼)

「あ、今日は新入生の二人は来ないのかな? えーと、姫守さんと黒岩さんだっけ?」


「ちがーう! 黒岩は芸名! 恵理ちゃんの本名は鬼越!」


 突如琉依が大声を発したかと思えば、陽瑠に掴み掛からんばかりの勢いで詰め寄る。


「ごめんね。そちらの名前のがよく見掛けるものだからつい……」


 話題に挙がった黒岩もとい鬼越恵理(おにごええり)は、今年の新入生の中でも飛び切り目立つ少女だ。


 彼女は黒岩エリの芸名で活躍する人気読者モデルである。そして言わずもがな、入学早々恵理には多くのサークルから勧誘があった。


 当初彼女は体を動かすのが好きだからと、スポーツ系のサークルを考えていたらしいのだが、ある日いきなり憑きサー参加を決定。ちょっとした騒ぎになった。


 スポーツ系に前向きな反応を示していただけに、それらのサークルメンバーの落ち込み方は酷いものだった。


 元々、鶴木蕗世という美女が憑きサーに入部していたことも含め、代表者である陽瑠は男子学生から敵意の眼差しを向けられている。そういう部分でも運が悪いと言えるだろう。


 ちなみに恵理のサークル参加理由だが、それは拍子抜けするほど単純である。


 ーー琉依に一目惚れしたから。それだけ。


「見つけた、わたしの運命の人!」と言って琉依にタックルをかましたのは記憶に新しい。華奢な体に不釣り合いなパワーの持ち主らしく、琉依の体は呆気なく吹っ飛ばされた。


 チャラ男で一定の彼女という彼女がいなかった琉依は、恵理の猛烈なアプローチをあっさり快諾。大学屈指のバカップルが誕生して現在に至る。


「鬼越さんが居れば、僕が琉依くんを助けることもなかったのですが……」


 そう呟いたのは織也だ。


 彼の言う助けるとは、幽霊から助けるという意味である。


 恵理は霊感が強い。更に彼女は琉依の前世である平安貴族、有栖の君と関わりのある人物だった。


 前世で彼女は有栖の君と恋仲にあった。ただしその当時、恵理は"鬼"であったと語る。つまり有栖の君は鬼と恋仲にあった男だったのだ。


 琉依に一目惚れしたのは、前世が有栖の君であると気がついたからである。もっとも、顔が美形でなければ一目惚れすることはなかったと恵理は言っているので、一概に前世の恋人だから好き、というわけではないようだ。


 前世が鬼であるせいか恵理は素手で幽霊に触れられる。加えて身体能力が高く、取り分け力が強い。


 幽霊からは恵理が鬼に見えているらしく、怖くて彼女に寄ってこないらしい。中には威勢良く向かってくるものも居るそうだが、そういう輩には拳を叩き込んで黙らせるそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る