超美形の幽霊ホイホイ

「ーーすいません。お邪魔してもいいですか?」


 色素の薄い髪の毛が、入り口の前でひょこひょこと揺れていた。陽瑠はその人物の存在を認めると「大丈夫だよ」と声を掛ける。


 入って来たのはプラチナブロンドに鮮やかな碧い目を持つ、とてもじゃないが日本人には見えないイケメンだった。


 見た目が完全に海外生産のイケメンは、申し訳なさそうに入室すると一番端の席へと腰掛ける。そして、机の上にあった菓子に手を伸ばすとーーその手を引っ込めた。


 残された菓子は一つ。所謂"遠慮の塊"というやつだ。


 海外製の彼が食べようか考えあぐねていると、ひょいと横取りする手が伸びてくる。あっと虚しい声が響くと同時に、机の上の菓子は横取りした無法者の口の中へと放り込まれてしまった。


「ははは! いっただきー!」


 明朗な声が室内に響き渡る。するとそこには、またしても色素の薄い髪の毛の青年が立っていた。


 しかしこちらは恐らく、ある一点を除いては純正日本人だろう。髪の毛の根元をよく見れば、黒々とした地毛が見えていたからだ。


 脱色した髪の毛が揺れている。一言で言うと、チャラい。


 だがこのチャラ男、腹が立つことに海外製のイケメンと並んでも見劣りしないくらいに整った顔立ちだった。顔の造形は日本人離れしたもので、綺麗な顔と言った方が的確だろうか……


 希に生まれる、外国のイケメンより整った印象の日本人というやつだ。本来の黒髪に戻せば、より魅力が際立つだろう。


「織也くん、それに琉依。二人同時なんて珍しいね」


「ええ、ちょっとまた琉依くんが絡まれていたものですから……」


 苦笑してそう答えるのは海外製のイケメンこと聖織也(ひじりおりや)だ。


「相変わらず幽霊ホイホイなんだね」


 カラカラと笑うと、陽瑠はチャラ男こと宮比琉依(みやびるい)の方を見る。


 琉依は居心地悪そうに視線を彷徨わせると、一言悪態を吐いて織也とは反対の席に腰掛けた。どうやら機嫌を悪くしたようだ。


 ーー宮比琉依は幽霊に好かれ易い。


 これは、彼が抱える最大のコンプレックスである。


「さっき熱烈アプローチを受けたばかりなんですよ」


 小声でそう言ったのは織也だった。しかし琉依に聞こえていたらしく、短い舌打ちが返されてしまう。すまなそうに織也が会釈した。


 宮比琉依は幽霊に好かれ易い。彼が物心ついた時には怪異はいつも隣り合わせであった。気を抜くと抱きつかれ、起きたら目の前にいる……そんなドッキリの毎日だ。


 しかし、彼が幽霊に憑かれる心配はない。ただ引き寄せて終わり。激しい悪寒や吐き気など、霊障に悩まされる心配もない。


 琉依にはもう一つ、特殊な事情がある。断片的であるが、彼には前世の記憶があるのだ。


 琉依曰わく、前世は有栖の君という平安貴族だったらしい。その人物は報われぬ恋の果てに恋人と心中した男のようで、この世への激しい怨みと来世への凄まじい執念という、仏もびっくりの歪んだ想いを抱えて死んだようだ。


 その歪な魂を持ったまま現世に生まれたのが琉依である。魂の歪みに惹かれて霊が寄ってくるものの、歪み過ぎて手に負えないので取り憑けないという、なんとも気持ち悪い状態を生み出していたのだ。


 琉依にしてみれば幽霊も変態も大差ないので、非常に不快とのこと。ちなみに彼に霊を祓う能力はない。 

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