大学のマドンナと御神刀

「……あのね陽瑠くん」


 講義が終わった昼下がり。プレハブ小屋には二人の人物が足を運んでいた。


 一人は代表者の逢間陽瑠。そしてもう一人は外国語学部の鶴木蕗世(つるぎろぜ)だ。


 蕗世もこの奇妙なサークルメンバーであり、そして何を隠そう多くの学生ーー主に男子学生であるーーが憑きサーに参加したがる一因だった。


 蕗世は美人である。


 顔はもちろん、スタイルも抜群。去年のミスコンでは優勝したし、街を歩けば誰もが振り返る女子大生だった。スカウトマンの誘いも後を絶たない。


 加えて彼女は剣道をやっており、その腕前はなかなかのものだという。


 美人で強い女子大生という肩書きは、多くの男子学生を魅了した。彼氏がいないのも、蕗世が多くの学生を惹きつける要因だろう。


「昔はもっと用心深かったはずだけど?」


「そんなもの、とうの昔に無くなってしまったよ。きっと頭でも打ったときに落としたんだろうね」


 そう言って茶化せば、蕗世は持っていた湿布を乱暴に貼り付ける。パシッと乾いた音が響くと、陽瑠は「痛たたた」と肩を跳ねさせた。打ち付けて痣になった腰が鈍く痛む。


 陽瑠の体には多くの傷や痣があった。治ったと思ったら増えていくの繰り返しで、彼が怪我をしていなかったことなど皆無に近い。


 蕗世はそんな彼を良く知っていた。何せ小学校と中学校が一緒の幼なじみなのだ。陽瑠の不幸体質は知っていて当然である。


「……御神刀を使っても、あなたの不幸体質は変わらなかったわね」


 蕗世は手元にあった木刀を引き寄せると、陽瑠の肩をペンペンと叩く。彼女の持つ木刀は、とある神社の御神木から作られたありがたいものだ。


 ーーそう、それは遡ること十年は昔の話。当時蕗世は近所の神社へ足繁く通っていた。


 小さくてボロボロの神社だったが、彼女は老いた神主の手伝いに本当に良く神社を訪れていた。


 しかしやはりボロ神社を維持していくのは厳しく、残念ながらその神社は取り壊されることとなった。木刀はその神社の御神木から作られ、神主から彼女に託されたものだった。


 年寄りの神主曰わく「神様の力が宿ってるすんごくありがたい木刀」とのこと。


「警策じゃあるまいし、肩を叩いてもどうだろう……」


「やっぱり"真打"じゃないとダメかしら」


「やめて。僕死んじゃう!」


 更に蕗世はすんごいありがたい木刀の他に、真打ーー神社に奉納された日本刀だーーも譲り受けていた。


 さすがに銃刀法違反になるので持ち歩いてはいないものの、こちらの真打も神主曰わく「神様が宿ってるめっちゃすんごくありがたい日本刀」らしい。


 そんな、真剣に真剣を使うか悩む蕗世を心配しつつ、陽瑠はプレハブの窓に視線をやった。


 季節は春。あいにくプレハブ横の桜の木は、既に花が散った状態だった。

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