第65話 運命の日
――――王国軍 アルテマ特別訓練場。
嫌な日というのはあっという間に来る。
一日一日過ぎるたび胃痛が激しくなり、この1週間はさながら余命宣告後のカウントダウンのようであった。
「気をつけッ!! ――――敬礼ッ!!!」
晴天の下、整然と並ぶ彼らは王国軍の中でも精鋭中の精鋭、"近衛連隊"だ。
間もなく来るであろうわたしの対戦相手、近衛連隊長を出迎えるべく待機しているらしい。
そして、この訓練場は決闘用に今回特別仕様らしく、小さなコロシアムのようだ。
周囲には観客として来たらしい他の騎士たちも、チラホラと見える。
「ティナー! 調子は大丈夫ー?」
観客席からのクロエの声に「最悪」とだけ答え、わたしは姿勢を正した。
そう、対戦相手のお目見えだからだ。
「近衛連隊長! イグニス・ハルバード中佐入場!」
魔導具によって拡声されたアナウンスと共に、わたしの正面へ1人の男性騎士がゆっくりと歩いてくる。
年は20代くらいかな、端正な顔立ちと、メガネの似合う金髪の男だ。
しかし、直後にわたしは既視感に苛まれた。
「あっ......! あなたは!?」
紛れもない、中佐の言っていた人の舌や胃を焦がすのが趣味という表現。
そして凄まじい既視感の正体が、今対面することによってハッキリした。
「どうもティナ・クロムウェル3曹、激辛料理店店長、
握手の手を出してきた相手は、ミーシャの勤めるお店の店長。
なにかの冗談と思いたい、でも、目の前の軍人は紛れもなくあの激辛料理を作っていた人だ。
「まさか過ぎてビックリですよ......、いつぞやはごちそうさまでした」
差し出された手を握る。
「アッハッハッハ! こちらこそ、アルマのやつに半額券を渡したのにまさか君たちが来るとは思ってなかった。けど、リアクション共々美味しく召し上がってくれて嬉しかったよ。アクエリアスの英雄さん」
「近衛連隊長殿にその名で呼ばれるとは恐縮です、わたしはただの一兵卒に過ぎませんので」
元はと言えばこれのせいで今回こうなってるわけなので、わたし自身は持ち上げまくった新聞や報道機関が恨めしくて仕方ない。
「ところでクロムウェル3曹、この試合をするにあたって僕から1つ頼みがあってね」
「はい......、なんでしょうか?」
まさか八百長とも思ったが、近衛連隊長に限って可能性はゼロに等しい。
ではいったいなんなのだろうと思案していたわたしへ、ハルバード中佐は特大のハンマーにも等しい言葉を投げつけた。
「僕がこの試合に勝ったら、君には我が"近衛連隊"へ入ってもらう」
「............えっ?」
わたしの思考は、周囲の歓声が耳に入らなくなるほどに、停止した......。
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