第14話 休暇争奪戦!?

 

 凄まじく巨大な組織と計画を知ったわたしとクロエは、フォルティシア中佐の呼び出しで駐屯地のグラウンドへ来ていた。


「魔導士による大規模テロ、さらには王国最強の闇ギルドと来おったか。ただのお見舞いでずいぶんとエグい情報を手に入れたもんじゃな」


 普段の堅苦しい軍服ではなく、運動用のトップスにショートパンツという涼しげな格好のフォルティシア中佐が、水筒から口を離しながら言った。


 照りつける太陽の下、惜しげなく肌を出す中佐はどこか扇情的で、同じ女のわたしですら目のやり場に困ってしまう。

 口調がアレなだけで、この人ルックスは結構良いからなー......身長はやや小さめだけど。


「それにしても、なかなかどうして王国軍われわれは暇になれんものよ......。平和の尊さが身に沁みるわい」

「騎士は無駄飯食いである方が、国民にとってはずっと良いというやつですね。ところで中佐、今日は運動で?」


 ブラウンの髪を後ろに縛った中佐は、タオルで汗を拭きながら水筒を置いた。


「まっ、そんなところじゃな。ここのとこ座りっぱなしの仕事続きで体が固まってての〜、たまには運動せんといかんわい」


 フォルティシア中佐も苦労が多いらしい、前に佐官食堂が息苦しいとも言ってたし、こうやって動いてる方が本人は好きなのかな。


「ところで――――」


 チラリと傍に生えた木の根本へ目をやる。


「ぶ~ッ......」


 緑陰で不機嫌そうに頬を膨らましていたのはクロエ、やっと入った休暇が潰れたことに、さっきからああやって無言で抗議しているらしい。


「クロエ・フィアレス1等騎士よ、休暇の取り消しは今度埋め合わせる故、そろそろ講話してくれんかの......?」


 正直、階級に物を言わせて命令すればいい話なんだけど、フォルティシア中佐はいつも相手との妥協点を探る。

 それが例え、何万人もいる下っ端の1人であっても。


「......今度取った時に1日追加してほしい」


 なので、当然こういった主張が出るんだけど、中佐は「突破口見つけたり」とこれに応じるのだ。

 でも、当然ながら無条件タダではない。


「良いじゃろう、わしに50メートル走で勝てたらくれてやる。1週間の連休にまとめての」

「......えっ? マジ!? 良いの中佐?」


 ブスーっと膨れていたクロエが立ち上がり、黒色の瞳をランランと輝かせた。


「わしに二言は無い、副師団長に掛け合ってやるから。さっさと軍服から着替えよ!」


 あっ、本気ガチのやつだこれ。

 しかも、クロエはいきなりその場で制服を脱ぎ始めると、あっという間に運動着(薄手のシャツに短パン)へ着替えた。

 おそらく、上着やスカートの下に元から着てたのだろう。


「悪いけど、机に座りっぱなしの中佐には負けないよ」

「望むところじゃ生意気な部下よ、せいぜい楽しませてみせい」


 こうして、中佐VS1等騎士という異例の勝負の審判を引き受けることになったわたしは、ゴール地点でスタンバイ。

 号令を担当した。


「では始めます! よーい......ドンッ!!」


 手を振り下ろすと同時に、2人の走者はグラウンドの土を蹴った。

 けど、結果は半分予想していたそれ。決して遅くはないクロエに大差をつけて、フォルティシア中佐がデスクワークとは思えない速さでゴールしたのだ。


 あんなに走って呼吸も乱さない中佐に、ゼーゼー息を切らしたクロエが芝生に倒れ込んだ。


「ハァッ......ハァッ、中佐のクラスレベルっていくつあるのさ!? 一応わたしこれでも42なんだけど?」

「フッフッフッ、またわしに勝ったら教えてやろう。まあ安心せい、休暇は今度1日多く用意してやるでの」


 結局は勝っても負けてもおまけするつもりだったらしい。

 そんな心ある上司に、わたしはすっかり忘れていた問題を聞いてみる。


「そういえば中佐、急に入った任務ってなんなんです?」


 そもそもわたしたちの休暇が潰れたのは、即応する必要のある任務が出たからだ。

 再び水筒を口に含んでいた中佐は、残りの分をクロエにあげると「そうじゃった」と口元を手の甲で拭った。


「おぬしら、アクエリアスコロシアムを知っておるな? 水上都市で行なわれる催しなんじゃが、その市内警備を任せたいと言われたんじゃよ」


 水上都市アクエリアス......。

 どうやら、戦車の整備で行けないと言っていたセリカにおみやげ話ができそうです。


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