第12話 現実的脅威 その2

「いらっしゃ~い。……って、おや!? 兵庫くんが美人さん連れてるー!?」

「ああ、そっすね」

「あんた、なんでアタシのことになるとそんなに素っ気ないの?」


 出合い方と印象のせいですかね? 仲間としては心強く思ってますよ。

 冒険を終えた僕とカクヤさんは鳴子さんのアトリエに訪れていた。

 カクヤさんがいるのは僕が利用しているアトリエが気になってついてきたからだ。気紛れってことだね。


「そういうのいいんで。はい、メンテおねがいしますね。それと相談があって」

「あれだね。兵庫くんはもうちょっと異性に興味をもった方がいいね。はいお預かりしますよっと。……んで? この子とのご関係は?」


 いいちゅっとろーが。でも紹介はいるか。これから限定的とはいえチームを組む人だし。

 どう説明しようかとカクヤさんを見ると、変装用の帽子とサングラスを外して素顔をさらしていた。


「初めまして。竹取赫夜と申します。本日より武庫川兵庫くんとチームを組ませて頂いてます」

「あら、お上品な女性ひと。すんごく美人さんだし、良かったわね兵庫くん。お姉さんちょっと安心したわ」


 誰だお前? そして誰がお姉さんだおば――


「「ん?」」


 イエナンデモナイデス。


「それにしても、この人も気づかない系か。なんのリアクションもないとか。自信なくすわ~」

「うちも鳴子さんもテレビ見ない派だから」


 ついでに言うとゴシップ誌なんかも見ないので本当に芸能界の動きとか知らない。

 素人お断りの訓練所で出待ち?されるくらい有名人なのは理解してるんだけね。

 だから肩を落としなさんなアイドルwさん。


「聞きたいこといっぱいあるけどそれは後にして、相談ってなあに?」

「うん。今日3層に行ったんだけど、そこにいたのがヒュージミリピードで……」

「……うう」


 思いだして気持ち悪くなったらしいカクヤさんを横目に今日あったことを話した。


「ああ、昆虫系のモンスターね。それも単体で出てくる巨体系のやつじゃなくて、群体で襲ってくる小型のやつ」


 小型ってああた。平面だけど全長が2m近くある多足類ですよ? 巨体系ってどんなのさ。


「あれ人気ないのよね~。ほら、モンスターって中身ないじゃない? だから毒とか効かなくて、昆虫系にも殺虫剤が使えないからみんな嫌がるのよね。対策はこっちも物量でなんとかするしかないのよ」

「物量って言うと?」

「人海戦術。もしくは一人頭の手数。兵庫くんはその美人さんと2人チームなのよね? だったら手数の方になるね。ちょっと待ってて」


 鳴子さんは僕が預けたシールドケースを持って奥の作業場に消えた。

 おう、いきなりカクヤさんと二人っきりにされと困るんですけど。まだ気軽に話ができるほど親しくないしね。


「「…………」」


 ほら無言になっちゃった。

 こ、ここは男の僕から話をふるべきか? し、しかし何を話せば……

 なんて言うのは杞憂で。僕がちょっとコミュ障気味でも相手はアイドルなんてやってるリア充である。

 黙ってても向こうから話題を提供してくれる。


「ねえヒョーゴ。ここってどこのメーカーをメインにしてるの?」

「メイン? ああ、取扱い商品か。それなら汎用性のある中クラス品をどこでもって感じかなあ。ああ見えて鳴子さん優秀らしくて、一通りのメーカーをいじれるみたいだよ。確か政府からも研究費が下りるくらいって父さんたちが言ってた」

「へえ、凄いじゃない。大抵のアトリエって名前負けのガンショップなのに」


 そうなんだ。僕は鳴子さん以外のアトリエって知らないけど、カクヤさんの口ぶりだと違うらしい。

 あれ? でも確か鳴子さんの専門って装備品じゃなくてサポートロボット系なはずだけど。

 う=ん、ちょっとくらいの畑違いならなんとかできるくらい凄いってことかな?


「お、おまた、せぇーいぃ!!」

「おわあっ!?」

「おおー」


 首を傾げていると奥から鳴子さんが出てきてカウンターの上に何かを重たそうに乗せた。

 ゴドンと重量感ある音を立てて乗ったのは、黒光りする大きくて太い筒状の物。

 ――ハンドガトリングガンだった。


「な、なんちゅう物を!」

「少人数で手数って言えばこれしかないわ。……燃費超悪いけど」

「いやしかしこれ資格とかいけるの?!」

「いけるいける。手続きは必要だけど、今回は貸出ってことにするから。本体も高いからね」


 このくらい。と鳴子さんが電卓をポチポチやる。

 ――うむ。レンタルでお願いします! でもCリキッドカートリッジのチャージ量も高ーい! それも1戦で1カートリッジ使い切っちゃうでしょこれー!


「うぐぅ、しかし。これしかしぃ~」


 赤字続きの僕はこれ以上の赤字と、それ以上の恐怖をもたらす多足類モンスターの狭間で葛藤する。

 そうして僕が腕を組んでうなっていたら、横からカクヤさんが一枚のカードを取り出した。


「カード使えるかしら?」

「使えますよ~ってクリスタルカードぉー!?」


 半透明のカードを受け取った鳴子さんが驚愕の表情を浮かべてのけ反った。


「ちょちょ、鳴子さんがなにに驚いてるか解んないけど、僕の装備品だからお金は自分でだしますよ」

「ええ。男の子の矜持ってやつは重々承知よ。でもね! アタシは本当にアレには耐えれないから! イエスって言いなさい!」

「い、イエス」


 マン!

 グダグダ抜かすとぶっ飛ばすわよ!!なんて目つきで睨まれた僕は忠犬のように畏まった。


 ……あれ? 僕ヤバくない? 鳴子さんにカクヤさん。年上のお姉さんにお金使わせるとか、ひょっとしてダメンズってやつじゃあ……ハハ、マサカネ!


 カクヤさんと次に組む日を決めた僕は、そのあいだに訓練所でハンドマシンガンの取り扱いの訓練をすることにした。

 今の僕にできる最も効率的なのが銃撃によるサポートだからだ。

 早く心身ともに強くなって下層なら一人でも戦えるようになりたい。

 そうじゃないとなけなしの貯金が減るばかりだから。


 カクヤさんと組めない大多数の日に組んでくれる人を探すのが一番良いのだろうけど、アイドルしてるカクヤさんの手前、信頼のおけない人とは組めない。

 カクヤさんと組む日だけ除け者にする都合の良い仲間だなんてチームじゃないし。

 誰か良い人いないかなあ……

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