第4話 狂戦士との遭遇 その1
「各種チェックOK。―起動する」
ちょっとロボットアニメっぽく言ってみた僕はライブアーマーのフルフェイスメットを被り、位置で言うなら盆の窪辺りになるメットの隠しスイッチを押し込む。
1、2、3秒。そこで首回りがキュッと閉まりジャストフィットする。視界もまた見えないサングラスみたいに黒く沈んでいたのが視野が広がるとともにクリアになる。
「うん、軽い」
昨日の未起動状態だと重かったライブアーマーが嘘みたいに軽くなる。
特殊繊維製のスーツ部分だけでも3Kgほど。急所や関節部分などを護るアーマーも入れれば10Kgほどにもなる重さがほぼ体感0だ。
今はCリキッドの節約でセーフモードにしてるけど、これを戦闘モードにすれば普段よりも向上した身体能力を発揮できるようになる。
しかし見た目もそうだけど、戦隊ものじゃない方の特撮ヒーロースーツみたいな装備品である。
なんにしてもありがたい話だ。鳴子さんのサービスで満タンにされたCリキッドによって今日は全力全開で冒険できるのだから。
気持ちを新しくした僕は腰のガンベルトに下げられている拳銃型結晶銃の石火参式改を一撫でし、右上腿に巻いたレッグベルトのナイフ形結晶剣、
大したお金にならなくて家に残った黎明期の骨董品だけど、浅層に生息するモンスターなら十分に通用するだろう。
柄にCリキッドカートリッジを入れる部分を追加した機械剣なため普通のナイフみたいな造形美はない。ハンドガード付きなのでなおさらだ。
「準備万端。行きますか」
昨日とは違って足取り軽く更衣室を出る。
甲山カオスホールは今日も大入りだけど時間的に少なめだ。
まだ13時過ぎと人気の少ない時間帯である。
妹達にお昼ご飯を食べさせてからの冒険となるのでだいたいこのくらいの時間になる。
高校が通信制で週に一回の登校で良いのでそれ以外の日がお仕事の日だ。
勉強も妹達に合わせて早寝早起きなので昼までにすればまあ、なんとか…なる…かも?しれない!
「邪念邪念。精神集中」
いや邪念じゃなくて大事なことなんだけどね。
カオスバスターなんて危険な仕事を生涯やるつもりはないのだし。
こちとら普通の少年だ。世界平和のためにカオスホールを破壊して回るなんて崇高な意志はないのだから。
自衛隊の人が護るゲートを抜け、カオスホール、洞窟の様な穴を形作る黒い靄の前に立つ。
そう言えば今日の自衛隊員は昨日とは違う人だったな。毎日交代するのだろうか?
なんてどうでもいいことを考えながら闇色の靄に身を浸……そうとしたところで出て来たバスターと鉢合わせした。
「……なに?」
「いえ、失礼」
「ふん」
一礼して横に退いて通り抜け、闇の中に入る。
……いやしかし凄い格好のバスターだったな。
女性にしては身長が高くて胸部装甲が薄い(意味深)モデル体型だったけど、何ていうか丸出しだった。
ライブアーマーのアーマー部分を手足にだけ残した超軽装甲。
スーツ部分も僕のより薄いぴったりフィットでほとんど全身タイツだ。
頭だけはしっかりフルフェイスメットだったので顔は隠れて居たけれど、あんなエロい格好で恥ずかしくないのだろうか?
なんか下着の部分だけ生地が厚くて逆にエロい形になってたし。
……うん、エロかった。いくら本体が生体バリアを発生させるスーツ部分だとしても丸出しとかないわ。エロいじゃないか。
エロインパクトのせいか背中にドラゴンでも狩るの?って言うくらいデカい大剣を背負っていたことも気にならなかった。
エロかったなぁ……。
そんなアレコレをモヤモヤと考えながら闇の中を進むこと数秒。岩の通路が姿を現す。
うん、昨日と同じ。洞窟ダンジョン型だな。どこか別の場所に飛ばされたりもしていない。
昨日に一度。カオスバスターになる前の講習で一度。今日で三回目なので思ったよりも緊張が無い。
しかし油断だけはするまいと頭の片端に残し、銃を抜いて通路を進んだ。
「んっ!」
「ギァ?!」
「キィ!?」
球技はてんで駄目なのに射撃は得意な僕の一撃がランドバットの体や頭を次々にを粉砕する。
昨日は初めての冒険で予備カートリッジすら使わずに戻ったけど、今日は二層に行くのを目標にしているので出し惜しみはしない。
しかしこういった時にはダンジョン型のカオスホールは面倒だ。戦闘を回避して進むと言うのが中々にできない。
ランドバットなんて撃ったら撃つだけ赤字になるのに……。
そうして装備品の高性能さから油断さえしなければ脅威にはならないランドバットを倒しながら小一時間。昨日よりも足取りが軽いせいか早々に奥に辿り着いた。
途中枝分かれした道もあったけれど正解だけを引いたようだ。
少し先に在るのは二車線ほどの広さの通路よりもずっと広いホール。その層のモンスターの強個体が潜む、いわばBOSS部屋だ。
その場で一度呼吸を整え、アーマーやウェポンのCリキッド残量を確認する。
カオスバスターもCリキッドがなくなればただの人。人間辞めちゃった超人や魔人を除けば装備品が全てだ。
ゲームとは違う現実ではレベルアップなんてしない。
……ひょっとしたら装備品の性能向上なんかがソレに当たるのかもしれないけど。
ライブアーマーの疑似生体バリアなんてすごくHPっぽいし、バリア強度が防御力かな?
モンスターの攻撃を受けてHP、つまりは生体バリアを発生させるCリキッドが尽きれば後は頑丈なだけのスーツアーマーでしかない。
無数のモンスターに集られればあっと言う間に肉塊のデッドエンド。
この流れで言うと武器の威力が攻撃力でCリキッドの残量がMPとかSPになるのだろうか。
「ふぅ……ふぅ……ん!」
意味の無い事を考えながら時間を過ごしていた僕は呼吸が落ち着いたのを感じて気合を入れる。
――逝ったらあああああああああああ!!
着用者の動きに合わせてモードが切り替わるライブアーマーが僕の意気と動きに合わせて戦闘機動に変わる。
まるで火事場の馬鹿力のようにいつも以上の力で駆け、強個体が潜むホールに飛び込んだ。
「「…………」」
「「…………」」
「「…………」」
そこに居たのはランドバットランドバットランドバット。壁や天井にビッシリとしがみ付いた大数無数のランドバットたちだった。
あ、ちょっとま―
「「ギイィッ!!」」
―ってくれませんよね!?
横殴りの雨のように降ってくるランドバットから逃げる僕は来た道を引き返しながら発砲する。
狙いなんて滅茶苦茶だけど、中型犬ほどもある体型のランドバットが面で飛びかかってきているせいかそれでも当たる。
金メダル選手ばりの速度で走る僕とほぼ同速で滑空してくるランドバットたち。撃てども撃てども数が減った様子はなく、ついには追いつかれた。
――ざっけんなよクソボケが!!
転がるように滑空するランドバットたちの下に躱した僕は太もものベルトからナイフ形結晶剣、三束を抜き放つ。
もうこうなったら殺るか殺られるか。後ろから前からランドバットに群がられる僕は左手の銃で乱射しながら右手でナイフを振り回す。
型なんて知ったことか! 防御も回避ももう知らない!!
足に齧り付かれれば蹴とばし、背中にしがみ付かれれば放っておく。
とにかくとにかく! 数を減らすのが先だ!
「うおおおおおおお!!」
ランドバットなんて油断さえしなければとか言ってごめんよ!
今超死にそうだわ!! なんか養蜂家の人を思いだすわ!!
多分と言うか確実に僕は調子に乗っていたのだろう。両親が遺した高性能な装備品があれば、ほどほどになら死なずに稼げるだろうと。
そんな訳はないのに。少子高齢化があったとはいえ日本の人口を半分にまで減らしたカオスホール被害。今も死に続けているカオスバスターたち。
野生に潜んだモンスターだって完全に駆逐されていない。
今でも年に数度はカオスホール外でもモンスター被害がある。
海を渡った《北にない北の国》なんて放棄されたからモンスターの巣窟だ。
なんとなくで生きていける甘い世界ではないのだ。この世界は。
「ぬわーーっっ!! っあ、あ?」
何時の間にか、ランドバットの雨がやんでいた。
意識がぼやけている中、背中でガジガジしているランドバットの頭を背中越しに撃ち抜き、無数に転がる石ころの様な結晶石に歩き辛そうにしているランドバットの残りを無心で掃討する。
……うん?
………ふえ?
…………あれ?
「おお~……おう」
腰が抜けた。脱力して地面に座り込む。
そうか、これが噂に聞く腰を抜かすか。
見ればアーマーのCリキッド残量はサブタンクまで使用して切れる寸前。サブタンクの取り換え用が一個あるだけ。
銃は予備も使い切り後数発程度。ナイフの方はもうただの鉄塊だ。
頭がふわふわしてなにがなんだか解らないけど、よいしょっと立ち上がって逃げて来た通路を戻る。
ランドバットがビッシリといたホールはほとんど空っぽ。
真ん中の辺りに通常の個体より2~3倍くらい大きなランドバットが居て僕に牙を剥いていた。もう牛だなアレ。
「ほい」
引き金を引いた銃からピュピュンと光弾が二発飛出し、地面に居て、と言うかもう飛べそうにもないランドバットに直撃する。
パチュン。大きな体に二つの大穴を空けた牛みたいなランドバットがあっさり霧散する。
……なんだろう? この
どう考えてもボスより凄すぎたランドバット(ノーマル)の群れが凄かった。
大事な事なので二回言った。
とりあえず普通の個体よりも大きな結晶石を拾った僕は来た道を引き返しながら数百個ものランドバットの結晶石を拾い、帰還した。
二層なんて行くだけのCリキッドが残っていないのもあったが、やっぱり一人で行動するには無理がありそうだ。
……そう言えば来る前に鉢合わせたエロいバスターは一人だったな。
なんとなくそのことを思いだした。
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