第9話 消えた926号室
エレベーターが一階に到着した。
扉が開くと、般若のように顔をしかめた男が私を待ち構えていた。思わずぎょっとして後ずさったが、よく見るとその男はロムだった。
「お前は本当に馬鹿だな。肝心の部屋番号も聞かずに飛び出していく奴があるか」
ロムは大股でエレベーターに入ってくると、蔑むように鼻を鳴らした。
「ば…馬鹿とは何よ!」
とっさに言い返してしまったが、内心私は深く反省していた。
「ウォルナッツの部屋は9階の926号室だ」
ロムはエレベーターのボタンを押し、得意げな笑みを浮かべてさらにこう続けた。
「あの審判員、個人情報だとかほざきやがって、なかなか部屋番号を言おうとしねぇんだ。ま、ちょっと脅してやったらすぐ喋ったけどな」
一体どんな手を使って喋らせたのだろうと気になったが、そんなことよりウォルナッツさんの部屋がラズベルが降りた階と同じ9階にあるということが気がかりだ。
もしかしてラズベルがサントノレ号に乗っていたのは、ターゲットであるウォルナッツさんを仕留めるためだったのだろうか。
しかし実際ウォルナッツさんは船に乗ってはおらず、行方がわからなくなってしまった。
だから彼は、理由は違えどウォルナッツさんを探している私達に近付き、情報を探ろうとした…?
――――そうだ、きっとそうに違いない…!
エレベーターが9階に到着し、私達は半ば扉をこじ開けるようにして外へと出た。
ところが、どういうわけかどこを探しても926号室は見あたらなかった。
「おかしいわね…。なぜ926号室がないのかしら」
まさか、ラズベルが魔法を使ってドアを消したとか…?
ひとまず、私は通りすがりの荷物を抱えた係員らしき男性に声をかけた。
「はい…。なんでしょうか…?」
息を切らしながら係員の男性は顔を上げた。そんなに大きな荷物ではなさそうなのに、なぜこんなにもぜいぜい息を切らしているのだろう。
「あの…その荷物、そんなに重いんですか?」
気になった私はつい関係のない質問をしてしまった。
「ええ、何しろ純金ですので」
苦笑いしながら男性は答えた。
「これは黄金の麻雀牌セットでして、麻雀選手権の優勝賞品なんですよ」
なるほど、どうりで重いわけだ。
…って、納得している場合じゃなかった…。
私はすぐさま926号室の場所を尋ねた。すると、予想外の答えが返ってきた。
「ここは6階ですので、926号室はありませんよ。926号室は9階ですから」
「ここが6階ですって…?」
私はキッとロムを睨んだ。
「ロム、あなた6階のボタンを押したわね!」
「うるせぇな。間違ったもんは仕方ねぇだろ。だいたい6と9って似てて紛らわしいんだよ」
「まったく、もう!馬鹿はどっちよ!きっともうラズベルは926号室に着いてるはずだわ。早く行かないと…」
私はエレベーターに向かって駆け出した。
「おいおい、なんでそこであのロン毛が出て来るんだよ」
後ろから私を追いかけながらロムが問う。
エレベーターが来るのを待つ間、私は簡単に事情を説明した。
「さっきエレベーターの中で彼に会ったの。とても偶然とは思えないわ。おまけに彼は9階で降りたのよ。きっと、ラズベルがウォルナッツさんを狙う刺客なのよ!」
「はぁ?!」
ロムは信じられないと言いたげに眉を寄せた。しかし私は気にせずエレベーターに乗り込み、9階のボタンを押した。
どうか、間に合いますように…!
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