第7話 その頃セリーズは…

私は今、魔術で巨大化させた使い魔のドレンチェリーの背に乗って、父がいる月餅王国へと向かっている。


広大な海の上を時速七十キロの速度で進みながら、私は常に神経を研ぎ澄ませてユベシの気配を探っていた。かれこれ二時間ほど探しているが、相変わらず彼の気配は感じられない。


私は小さくため息をついた。


「セリーズ様、少しお休みになられてはいかがですか?ユベシの捜索でしたら私にお任せください」


ドレンチェリーが気遣いの言葉をかけてくれる。


「そうね…」


私は彼女の言葉に甘えて少し眠ることにした。実を言うと、昨夜は色々あったせいであまり眠れていないのだ。


「ユベシを見つけたら起こしてちょうだい」


私はドレンチェリーのふわふわの羽毛に体を預けて目を閉じた。


ところが、それから数分と経たないうちにドレンチェリーは突然急降下した。

一体何事かと目を開けると、前方百メートルほど先の海面に何か得体の知れないモノが漂っていた。


――――あれはまさか…!


すぐさまその物体をドレンチェリーの背に引き揚げ、姿を確認してみる。


案の定、ユベシだった。


見た目はぐったりとして死んでいるように見えるが、脈拍も呼吸もしっかりしている。


「ユベシ、起きなさい」


私は毛のないユベシの頭を軽く小突いて呼びかけた。


ユベシは低い唸り声を上げながら目を開けると、突然バッと翼を広げてヒステリックに喚きはじめた。


「やめてくれ!焼き鳥にしないでくれ!ご主人様の情報なら何でも教えるから――――」


「ユベシ!」


私は語気を強めてもう一度彼の名を呼んだ。ユベシはハッとしたように顔を上げ、私に気付いて目を見張った。


「セ…セリーズ様…!」


彼は恭しく両翼を体の前でもみ合わせ、媚びるような猫撫で声で喋りはじめた。


「いやぁ、まさかこんな所でセリーズお嬢様にお目にかかれるとは!相変わらずお美しくていらっしゃる…」


「そんな話はどうでもいいわ。それよりユベシ、あなた、お父様の居場所を誰かにバラしたんじゃないでしょうね?」


とたんにユベシはギクリと翼を縮めた。そして、「ギョエー!」と意味不明な叫び声を上げたかと思えば、突然その場にバタリと倒れ込み、それきり動かなくなってしまった。


「ユベシ」


私は冷ややかに呼び掛けた。


「死んだふりしたって無駄よ」


ユベシは諦めたように吐息をつき、ゆっくりと起き上がった。


「言いなさい。誰にバラしたの?」


「ええと…」


私の顔色を窺いながら、ユベシはこわごわと話し始めた。


全て聞き終えた私は、呆れて物も言えない始末であった。


「あのう…」


ためらいがちにユベシが切りだす。


「私は…これからどうしたらいいでしょうか?」


「どうするもこうするもないでしょう」


私はギロリとユベシを睨みつけて言った。


「これから大急ぎで月餅王国に向かうしかないわ。間に合うといいけど…」

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