第2話 高額報酬アルバイト

セリーズさんの忘却魔法は成功し、目を覚ましたガーネットは首を傾げながら魔界へと帰って行った。


身も心も疲れ果てていた私達は、結局そのあとノアゼットさんの屋敷に一泊させてもらうことになった。

そして翌日の午後、私とロムとセリーズさんの三人は、ノアゼットさんに見送られながら屋敷を出ていった。


帰りの船が入港するのは夕方なので、私達はそれまでメインストリートの方で時間を潰すことになった。といっても三人一緒にではなく、それぞれ別行動であったが。


ちなみに私は主に食べ歩き、セリーズさんはバーチ・ディ・ダーマで優雅にティータイム、そしてロムはバニーガール喫茶で女の子を漁っている。


それぞれの楽しい時間はあっという間に過ぎて行った。


西の空が橙に染まり始めたので、私は食べかけていた串団子を一気に口に入れ、港へと向かって歩き出した。


ふと、中央広場の前で何かを配っている男性の姿が目に入り、足を止めた。


広告付きのポケットティッシュを無料で配っているのかもしれない――そう思ったのだ。


タダで貰えるものは貰っておかないとね。


私はさりげなく男性に近付いていった。

ところが彼が配っていたのはポケットティッシュではなく、ただのチラシであった。


なんだ…ただのビラ配りか…。


しかしここまで来て引き返すわけにもいかず、仕方なくそのチラシを受け取った。

一応裏返してもみたのだが、残念ながらポケットティッシュはどこにもついていないようだ。


――――あーあ…ゴミが増えちゃった…。せめてキャンディーの一つでもついてたらよかったのに。


がっかりしながらも、取り合えずチラシの内容に目を通してみる。



**************



●高額報酬アルバイト緊急募集●


※場所 →オペラ城

※面接→なし

※年齢制限→なし

※報酬→100万π(ただし最後まで作業を行った者だけにその報酬が与えられるものとする)

※仕事内容→城内のゴブリン駆除

※条件→体力、腕っぷしに自信のある方(魔術師歓迎)


興味のある方は本日夕方六時までにオペラ城正面入り口前に集合。



***************



チラシを見つめたまま、 私はしばらくぼうっと考えていた。


ゴブリンを駆除するだけで、100万πという大金が手に入る――――


ちなみにゴブリンは魔物の中で最も弱く、魔術師達からは雑魚キャラ扱いされている。

その弱さは見習い魔術師の私でも簡単に倒せるほどだ。


それにしても、純血の魔術師一族ともあろうスフェンダミ家が、なぜゴブリンごときを駆除するために、わざわざバイトなんて募集してるんだろう?



「何だ?その紙切れは」


ふいに背後から青白い手がスッと伸び、私の持っていたチラシをひったくった。


振り返ると、そこにはやはりロムがいた。


「あー、何々…城内ゴキブリ駆除…?」


ロムは顔をしかめながらチラシの内容を読み上げると、興味なさげにチラシを私に返してきた。


「ゴキブリじゃなくてゴブリンよ」


一応読み間違いを訂正したが、ロムはどうでもよさそうに鼻を鳴らしただけだった。


「ロムったら、ちゃんと内容読んだ?ゴブリン退治するだけで報酬100万πもらえるのよ。こんな美味しい話、滅多にないと思わない?」


なんとかロムをその気にさせようと、私は必死で説得してみたが、どうやら無駄のようだった。

やはりロムは美しい女性にしか興味関心がないらしい。


「ゴブリン退治って、何のお話?」


ちょうどセリーズさんもやってきたので、私は彼女にチラシを見せ、一緒にどうかと誘ってみた。

しかしセリーズさんはその誘いをあっさりと断り、真面目な顔でこう言った。


「私はこれからお父様のいる月餅王国へ向かうわ。今回のことを直接報告したいから。それに――」


彼女はここで言葉を切ると、一つため息をついてから再び話し始めた。


「ユベシもまだ行方不明のままみたいだし、月餅王国へ向かいがてら捜索しようと思うの。あのユベシのことだから、おそらく途中で道草を食っているに違いないわ」


“ユベシ”という三文字に、私は思わずあっと声を上げた。


そう。私はユベシさんの捜索という本来の目的をすっかり忘れてしまっていたのだ。


ゴブリン駆除のバイトなんてしてる場合ではなかった。


私もセリーズさんと一緒にユベシさんの捜索に行かないと…。


ところが彼女は、自分一人で大丈夫だからと、私の申し出をやんわりと断り、そのまま別れを告げて颯爽と立ち去ってしまった。


「やっぱりセリーズさんてかっこいいなぁ…。私も彼女みたいな魔術師になれるようにもっと修行しなきゃ」


彼女の美しい後ろ姿をうっとりと眺めながら、固くそう決意した。


「なぁ、やっぱりこのバイトに応募しようぜ」


唐突にロムがそんなことを言い出したので、一瞬私は耳を疑ってしまった。


さっきはあんなにやる気なさそうだったのに、一体どうして急に…?


聞かずとも、ロムはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながらそのわけを話し出した。


「城の中には、若いメイドの女がたくさんいるんだろ?」


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