第14話 救援!

「ロム!もっと急いで!」


屋敷の階段を駆け上がりながら、私は後にいるロムに向かって声を荒らげた。


どうやらまたいつものごとく喉が渇いて力が出ないらしい。


毎度のことながら情けない奴だ。


「うるせぇな!これでも本気で走ってんだよ」


ゼイゼイ息を切らしながら逆ギレするロムを無視し、私は先へと急いだ。


二階へ上がったとたん、おそらくセリーズさん達が戦っていると思われる客間から、激しい衝撃音が聞こえてきた。


今のは、一体何の音だろう…?まさかセリーズさんの身に何か…?


急に不安が押し寄せてくる。


私は無意識にスカートのポケットへと手を伸ばした。


指先に触れる、ざらっとした硬い感触。


そう、魔糖石だ。


実はユベシさんに魔糖石の箱を渡してしまう前に、こっそり一つだけポケットに忍ばせておいたのだ。


勿論悪い事なのは十分承知だ。


でも、魔糖石なんて今後一切お目にかかることもなさそうだし、せっかくだから万が一の時のために一つ取っておきたかったのだ。


本当はこんなに早く使うつもりではなかったが…状況によっては使わなければならないかもしれない。


さっきから、なんだか嫌な胸騒ぎがするのだ。


「セリーズさん…どうか無事でいて…」


彼女の無事を祈りながら、私はようやく追いついてきたロムと一緒に客間へ向かった。


扉を開けた瞬間、息を呑む光景が目に入ってくる。


私の嫌な予感は、やはり気のせいではなかった。


セリーズさんが、今まさにガーネットの大鎌に切り裂かれそうになっていたのだ。


私はすぐさまポケットに手を伸ばし、魔糖石を口に運ぼうとした。


が、一つ重要なことを思い出し、口の前で手を止める。


そう、私の聖なる光の呪文は、ガーネットには効かないのだ。


それなら、私が食べるよりも―――


「セリーズさん!これを使って!」


私は声を張り上げ、魔糖石を彼女に向かって投げ放った。


説明せずとも、セリーズさんは私の言葉の意味を瞬時に理解したようだった。


彼女は受けとった魔糖石を口に放ると、即座にガーネットに向かって聖なる光の呪文を唱えた。


私の時と違って、ガーネットは酷くもがき苦しみ、床へと崩れ落ちていった。


「セリーズさん、大丈夫ですか?」


私は真っ直ぐセリーズさんの元へと向かった。


「へぇ、同じ魔術師でも、三流のお前とはえらい違いだな」


ようやくやって来たかと思えば、ロムはさっそく嫌味を言ってきた。


「うるさいわね。純血魔術師のセリーズさんと比べないでよ」


私はいったんロムの向こうずねに蹴りを入れてから、気を取り直してセリーズさんに向き直った。


「ありがとう、ミルテ。おかげで助かったわ」


セリーズさんは頬を緩ませて礼を述べた。


しかし、ふいに仮借ない厳しい顔つきになって、さらにこう続けた。


「でも、いくらユベシやお父様が鈍感だからと言って、魔糖石を勝手にくすねてはいけないわ」


「ごめんなさい…つい…。でも、もう二度としないと誓います」


私は頭を深く下げ、力強くそう宣言した。


「セリーズさんよぉ、あんたは典型的な委員長タイプだよな。別にいいじゃねぇか、魔糖石の一つや二つや三つくらい」


煩わしそうにため息をつくロムに、セリーズさんはキッと鋭い視線を向けた。


「あ、あの…!ガーネットさんのことだけど…」


二人の間にバチバチと火花が散っていたので、私は急いで話題を変えた。


「彼女、動かないけど…ひょっとして…」


「大丈夫、気を失っているだけだから」


セリーズさんは床に倒れているガーネットの傍にしゃがみこみ、彼女の赤い髪にそっと手を触れた。


「今のうちに、忘却魔法で彼女の記憶を一部消すわ。お父様やノアゼットさんのことは勿論、スノーボウル村のことや、十四年前のこと――とにかくガーネットの頭から“復讐”という二文字の言葉を追い出さないと…」


ガーネットに忘却魔法をかけるセリーズさんは相変わらず取りすました表情を浮かべていたが、その瞳はどこか悲しげに見えた。


私は元気付けるように彼女の肩にそっと手をかけた。

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