第13話 潜伏中の三人

私達三人は今、ノアゼットさんの屋敷から半マイルほどの場所にある薄汚いバーに身を潜めている。


「さっきはつい逃げてしまったが、セリーズは大丈夫だろうか…」


テーブルの上で祈るように手を組んだまま、真っ青な顔でノアゼットさんは呟いた。


「あの女なら心配ないだろ。何しろ純血の魔術師だからな」


呑気に酒を飲みながら、皮肉っぽい口調でロムが言う。


それでもノアゼットさんの表情は強ばったままであった。


彼を少しでも安心させようと、私は優しく声をかけた。


「セリーズさんならきっと大丈夫よ。だって彼女、シュクルブラン家の中でも屈指の魔術師なんでしょ?ガーネットなんかに負けるはずないわ」


「まぁな…。セリーズは生まれた時から人一倍魔力が強かったからな…」


相変わらず暗い表情のまま、ノアゼットさんは大きなため息をついた。


きっとセリーズさんを置いて逃げてしまったことに罪悪感を抱いているのだろう。


しかし、原因はどうもそれだけではなさそうだ。


ノアゼットさんは一息ついてから顔を上げ、神妙な顔で切り出した。


「確かにセリーズは並外れた魔力の持ち主だし、これまで数多くの魔物を成敗してきた凄腕の魔術師だが…だからと言って無敵というわけではない。もし戦闘中にマジックポイントが尽きてしまえば――魔術以外に戦うすべを持たない彼女にとって、それは致命的だ…」


そうか。彼はそれを心配していたのか。


「へぇ、じゃあマジックポイントがゼロになっちまえば、セリーズのやつはただのか弱い女になるってわけだ」


「ちょっと、ロム!」


彼の心ない一言に、 私は口を出さずにはいられなかった。


「縁起でもないこと言わないで。だいたいあのセリーズさんに限ってマジックポイントがゼロになるようなことなんてありえないでしょ。少なくとも私の五倍、ううん…十倍は持っているはずなんだから。そんなこと、絶対――」


「いや、実は…」


突如私の言葉を遮って、ノアゼットさんがおずおずと口を開いた。


「ガーネットが放つ毒針は…麻痺作用の他にマジックポイントを吸い取ることができるんだ…。だからもしセリーズがその毒針を食らったら…」


彼は最後まで言わず、テーブルにゆっくりとうなだれた。


私は開いた口が塞がらなかった。


そんな重要なこと、どうしてもっと早く言わなかったのだろう?


いいや、今はあれこれ考えている暇はない。


私は意を決したように立ち上がり、ロムに向かって呼びかけた。


「ロム、屋敷に戻りましょう」

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