第5話 囚われのユベシ
熱い…。
全身が燃えるように熱い…。
ここはどこだろう?
なんだか体が動かせないし、下からパチパチという音も聞こえてくる。
意識が朦朧とする中、私は状況を確かめようと力を振り絞って両目を開けた。
「ギアァァァッ!」
思わず絶叫した。
私の体は木の棒にくくりつけられ、暖炉の火でじりじりと炙り焼きにされていたのだ!
「ようやくお目覚めかな?コンドル君」
頭上から聞こえてくる、爽やかで落ち着いた男の声。
彼はひとまず私を火から遠ざけてくれたが、縄は解いてはくれなかった。
「おのれ、貴様…!どういうつもりだ!」
私は大声で怒鳴りながら、体をよじり、男を見上げた。
艶のある金茶色の髪、整った顔立ち、スラリと伸びた長い手足。
年の頃、二十歳前後といったところか。
ふむ、なかなかの美青年だな。
――いや、そんなことはどうでもいいのだ。
「やい若造!よくもこの私を焼き鳥にしようとしてくれたな!我主人ウォルナッツ様に言いつけて、貴様も同じ目に遇わせてやるから覚悟しておけ!」
「君が目を覚まさないから、生きてるかどうか確認しようと思ったんだよ」
男は邪悪な笑みを浮かべながら、覗きこむように私のそばに屈みこんだ。
「無礼者!」
私はキッと男を睨んだ。こんな時は、強気な姿勢で行くのが一番だ。
「ボサッとしとらんで、さっさとこの縄をほどかんか!」
ふいに男の後ろから、若い女が一人現れた。
「弱い鳥ほどよく鳴くとは、実によく言ったものですね」
感情のない、冷たい声。
「エルド様、いっそのこと焼鳥にしてしまいましょうか?」
彼女はおもむろに暖炉の中から火かき棒を引き抜き、その切っ先を私の顔先に突き付けた。
「ヒィッッ!」
「おいおい、サンディア。弱い者をいじめるのは良くないぞ」
エルドと呼ばれた男が笑いながら彼女を窘める。
「貴様ら、一体何者だ?私を丸焼きにして食べるつもりなのか?」
「食べる?まさか!」
エルドはくつくつと笑い出した。
「僕達の目的はね、コンドル君。君じゃなくて、我々の貴重な魔糖石を盗んだ罪深い君のご主人様の方さ」
思わず私はギクリとした。
――――こやつ…なぜそのことを…?
いや、釜をかけられているという可能性もある…。
エルドは穏やかな微笑を浮かべたままさらに続けた。
「しかしどうやら君のご主人様は、相当遠くまで逃げてしまったみたいだな。だからこうして君にお越し頂いたというわけさ。使い魔である君なら、勿論主人の居場所を知っているだろう?」
「き、貴様、無礼だぞ!我が御主人様がそのような真似をするはずがなかろう!」
取りあえずしらを切っておく。
「まったく、見苦しいですね」
サンディアという女は射るように私を見ると、「じゃあ、これはどう説明するんです?」と、懐から洒落たデザインの小さな箱を取り出した。
その箱を目にして、私はハッと思い出した。
そうだ。私はこの箱を――魔糖石の入ったこの箱を、御主人様の元に運んでいる最中に襲われたのだ。
しまった…。これじゃ言い逃れはできない…。
だが、いくらなんでも私の主人の名前まではこやつにもわからないだろう。
「それじゃあ、君の主人ウォルナッツの居所を教えてもらおうか」
「な…!なぜ御主人様の名を…?」
私は目を見開いたまま、嘴をパクパクさせた。
「だ…誰が貴様らなんぞに教えるものか!ウォ…ウォルナッツ様は今、大事な試合を控えておられるのだ」
「ふーん、そうか。じゃあ…」
突然エルドは私を両手で持ち上げ――なんと暖炉の方へ足を進めた。
「こ、こら…!な…何をする気だ…!」
私は彼の右手の中で激しくもがいた。
まさか、今度こそ私を焼き鳥にするつもりなんじゃ…?
「わ、わかった…教える!教えるから焼き鳥にしないでくれ!」
私は涙ながらに懇願し、連中にウォルナッツ様の居場所を教えてしまった。
「なるほど…月餅王国のテンシンタワービルか」
エルドは場所をメモすると、サンディアを手招いてその紙を渡した。
「ただちにこのメモを刺客に渡せ」
指示を与えらえたサンディアは返事と共に素早く部屋から出て行った。
“刺客”…?
こやつ、ご主人様をどうするつもりだ…?
急に不安が押し寄せてきた。
しかしそれにしてもこのエルドという男…ずいぶんと良いご身分のようだが、一体何者なのだろう。
身に付けている衣服も上等なものだし、貴族の息子だろうか…?
先程、我々の 魔糖石などとわけのわからないことをほざいていたが、あれはどういう――――ん…?待てよ…。
まさか、こやつ―――
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