第4話 午後のティータイム
船がオペラ王国の港に着いたのは、誕生記念パーティー当日の午後三時だった。
港から城までの距離は、徒歩でおよそ一時間。
おそらくパーティーが始まるのは夕方過ぎだろうから、のんびり歩いても余裕で間に合う。
そう。私が思い付いた ある場所というのは、オペラ王国のことであった。
招待状はロムが持っているし、彼と一緒に行けば城に入れてもらえるだろう。
しかし、決して遊びに来たわけではない。
ここに来れば何かユベシさんを探す手がかりが見つかりそうな気がする――私の長年の勘がそう言ったのだ。
さてと、せっかく時間もあることだし、まずは城下町のお洒落なカフェで一休みするとしよう。
先日と違い、今回はちゃんと財布を持ってきているのだ。
この際、ちょっと見栄を張って高級そうな喫茶店にでも入ってみようか。
ということで私は、入り口に金色のキスマークの装飾が施された、高級感のある外観の『バーチ・ディ・ダーマ』という喫茶店に入ってみた。
席に着き、取り合えずコーヒーを頼む。
やはり高級カフェだからか、店の中は有閑マダムだらけだった。
――――なんだか場違いな感じ…。もっと若向けの、明るい感じのカフェにすればよかったかな…。
と、後悔し始めていたその時。
大きなドアベルの音と共に入り口のドアが勢い良く開いた。
どうやら新たな客が入って来たようだ。
乱暴なドアの開け方からして、上品なマダムではないことは容易に想像できる。
その客は店内全体を見回しながら、怪訝そうに顔をしかめてこう言った。
「なんだ、この店は。キャバクラじゃないのか…?」
マダム達がどっと笑った。
確かに、入口のあのマークだけ見たらキャバクラかピンサロと勘違いしてしまう人もいるかもしれないが…。
店先にあるブラックボードの内容を見たらカフェだとわかるだろうに。
というか、そもそもその手の店は真っ昼間からやってないし。
一体どんな下衆野郎が入って来たのだろう…。
この際だから、ちょっと顔を拝んでおくか。
私は入り口付近に立っている男にチラリと視線を向けた。
黒い髪、金色の瞳、漆黒のロングコート。
――――あれ?どこかで見たような恰好…。
「あ…ロム…!」
私は席から立ち上がって声を上げた。
「む?ミルテじゃないか」
ロムも私に気付いたようだ。
「奇遇ね。また会えて嬉しいわ」
私は満面の笑みで言った。
勿論、これは本心だ。
だってあとから探す手間が省けたのだもの。
こんな嬉しい偶然は中々ないものだ。
しかしロムは、私が嫌味を言ったのだと勘違いしているようだった。
「うるせぇな。キャバクラかと思ったんだよ」
私の向かい側の席に腰を下ろし、ギロリと鋭い視線を向ける。
「それより、ユベシの捜索はいいのかよ」
「ええと…」
私が口ごもると、ロムはやれやれと大きく首を振りながら、
「つまりユベシはお前に見捨てられたってわけか。憐れな鳥だな、あいつも」と、わざとらしく大袈裟に憐れんでみせた。
「人聞きの悪いこと言わないでちょうだい。ちょっとユベシさんを探しがてらオペラ王国に寄ってみただけなんだから!」
「どうだかな」
ロムの口元が意地悪く吊り上がる。
「お前のことだから、どうせ俺の話を聞いてパーティーとやらに行ってみたくなったんだろ?ひょっとして、パーティーの御馳走がお目当てか?」
「えっ…?!」
私は危うく持っていたコーヒーカップを落っことしそうになった。
「し、失礼しちゃう!そんなわけないでしょ」
言い終わらないうちに、ロムはゲラゲラと笑いだした。
「その顔は図星だな。まったく意地汚いガキだ。仕方ないからお情けで連れてってやるよ」
相変わらずの上から目線には腹が立ったが、私はなんとか怒りを抑えこんだ。
パーティーに出席するためだ。
「なぁ、ミルテ。くれぐれも食い過ぎて給仕の奴を困らせるような真似はするなよ」
「な…!失礼ね!」
そんなに食べるわけないでしょ!
相変わらず口の減らない奴!
その減らず口に、この熱々のコーヒーをぶちこんでやろうかしら…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます