第3話 再会
「まったく!どうして私がこんな目にあわなきゃならないの!」
森の中を歩きながら、私は誰に言うでもなく文句を言い続けた。
だいたい探せって言ったってどこを探せばいいわけ?
私には使い魔はいないし、ユベシさんの匂いを辿ることはできないっていうのに。
「何さっきから一人で怒ってんだ?」
突然、頭上から聞き覚えのある声が聞こえた。
見上げると、やはり木の上にあの男が立っていた。
そう、吸血鬼のロムヴェーレ・マートン・ソーレンスだ。
「怒ると益々ブスに見えるな」
ロムは私の顔を見てせせら笑うと、ひょいと木の上から身を投げ出し、華麗に一回転しながら地面へと着地した。
一週間ぶりに会ったロムは、ずいぶんと機嫌が良さそうだった。
「へぇ、あの場所からよくこの森まで帰ってこれたわね。てっきり途中で干からびたものだと思ってたわ」
ロムは私の嫌味にも反応せず、愉快そうに笑っている。
「ずいぶんとご機嫌な様子ね。何か良いことでもあったの?それとも血が足りなくて頭がイカれちゃった?」
不機嫌そうな私を見て、ロムは勝ち誇ったように鼻を鳴らした。
「実は昨日、身なりのいい婦人を襲った時、良いものを拾ったんだ」
そう言って、ロムはポケットからよれよれになったハガキサイズのカードを取り出した。
見ると、その紙の一番上には金色の飾り文字で大きくこう書かれていた。
『オペラ王国マルメロ国王陛下誕生記念パーティー招待状』
そしてそのカードの裏には、ロムが襲ったと思われる女性の名前と、その夫と思われる男性の名前が書かれてあった。
「人の集まるパーティーとくれば、グラマーな若い女を狩るのに最適の場所じゃねぇか」
顔いっぱいに嫌らしい笑みを浮かべるロム。
思わずため息が出てしまった。
「やっぱり、そんなことだろうと思ったわ。こっちは人探し―――じゃなくて、鳥探しに忙しいっていうのに」
「鳥探し?」
ロムはカードをしまい、眉をひそめた。
「そうよ」
私は二度目のため息をつき、ユベシさんが現在行方不明になったことや、その捜索を私が任されてしまったことを説明した。
「へぇ!あの間抜けなコンドルの奴、誘拐されちまったのか!」
ロムときたら、聞き終えるなり大口を開けて笑い出した。
「きっとあの馬鹿コンドル、奪って下さいと言わんばかりに魔糖石の箱を嘴にくわえながら飛行していたに違いないぜ」
「ちょっと、笑うことないでしょ?ユベシさんが可哀想よ!」
私はロムをキッと睨み付けた。
「だがよ、まだ誘拐されたと決まったわけじゃねぇだろ」
ロムはやっと笑うのをやめ、少し真面目な口調で話し始めた。
「ひょっとしたら、奴にゃ何か帰れない理由があるのかもしれないぜ」
「帰れない理由?」
「ああ、たとえば…魔糖石を失くしちまったとか」
確かに、ユベシさんならそういうこともあり得そうだ。
ロムはさらに話を続けた。
「それに、だ。聞けばユベシの奴、まだ生きてるらしいじゃねぇか。もし誘拐犯の目的が魔糖石なら、まずさっさとユベシを殺しちまうと思わないか?奴を生かしておくメリットなんて、連中にはこれっぽっちもねぇんだからよ」
「まぁ、言われてみればそうね…」
ロムの意見に頷きながら、ふと私は気が付いた。
いや…、一人いる。
ユベシさんを生け捕りにしてメリットのある人が…。
「ガーネットよ!きっと彼女の仕業に違いないわ」
私は自信たっぷりにそう断言した。
しかし、ロムは些か納得いかなそうな顔をしていた。
「だとしたら、とっくにウォルナッツは居場所がバレて殺されていてもいいはずだぜ。ユベシは口が軽そうだからな」
確かにそうだ…。現にウォルナッツさんはまだ生きているし。
でも、ユベシさんが口を割らずに拷問に耐えているっていう可能性もある。10%…いや、5%くらいは。
「ま、どっちにしろ俺には関係ない話だけどな。せいぜい頑張れよ」
ロムは私の背中をバシッと叩き、笑いながらまたどこかへ去っていった。
いい気なものだ、まったく。
こっちはユベシさんがどこにいるのか見当すらつかず途方に暮れてるっていうのに!
でも本当に困ったな。
一体どこへ向かえばいいのだろう?
うーん…。
もうこうなったら、己の勘に頼るしかない…。
あっ、そうだ!
突然私の頭の中に、ある場所が思い浮かんだ。
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