第2話 ウォルナッツからの手紙②
「違う、違う!もっと下じゃ!ああ、そこは骨じゃろう!」
私は今、じいちゃんの腰を揉んでいる。
別に敬老の日でもなんでもない。
事の発端は、遡ることおよそ一週間前。
じいちゃんは私が戸棚に隠しておいたコーヒー染めのローブを見つけてしまったのだ。
コーヒー染めのローブというとなんだかお洒落に聞こえるかもしれないが、実際はコーヒーのシミがついて取れなくなったローブだ。
しかも、じいちゃんが一番大切にしていた上等なローブ。
それを私が汚してしまったのだ。
私に下された罰は、一ヶ月間毎日一時間じいちゃんの腰を揉むこと。
最初はなんだそれだけかと思っていたけど、やってみると結構キツい。
おまけにじいちゃんは私の揉み方にケチばかりつけるし…。
まぁ、自分が悪いんだから仕方ないんだけどね…。
でもじいちゃんたら、最初戸棚からあのローブを見つけた時、私からの誕生日プレゼントだと思ったって言うんだから笑っちゃった。
しかもそれがコーヒー染めのローブとも気付かずに、その日一日着ていたんだって。
そしてそのまま雀荘へ行って、仲間に言われて初めて気が付いたみたい。
ああ、いけない、いけない。
想像したら吹き出しそうになっちゃった。
「ミルテ!」
じいちゃんに大声で名を呼ばれ、私は我に返った。
「さっきから誰かドアを叩いておるぞ。早く出んか」
じいちゃんに命令され、私は慌てて玄関先へ向かった。
家を訪ねて来たのは郵便屋さんだった。
手渡されたのは、封蝋が施された一通の封筒。
「あれ…?じいちゃん、これ…ウォルナッツさんからよ」
私はじいちゃんに手紙を手渡した。
「ウォルナッツからじゃと?ああ、きっとこの間のお礼の手紙じゃろう。どれ、いくら入っているかのう…」
じいちゃんは顔一面に意地汚い笑みを浮かべながら封を切った。
「もう、じいちゃんったら」
まぁ、内心私もちょっと期待してるけど。
ところが、封筒の中にはお札はおろか小銭一枚たりとも入っておらず、入っていたのは三つ折りに畳まれた一通の手紙だけであった。
しかもその手紙には、信じられないことが書いてあった。
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親愛なるアマンド様
突然このようなお手紙を出して失礼だとは思ったのですが、どうも嫌な予感がいたしましたので書かせていただきました。
実は、ふつつか者の私の使い魔ユベシが、一週間前お宅のミルティーユ様から魔糖石を受け取りに行くと言ったきり、戻ってこないのです。
ユベシの行き先について、何か心当たりはないでしょうか?
確かにユベシはちょっと…いや、かなり抜けたところのある頼りない使い魔ですが、決して黙っていなくなるような奴ではないのです。
だから私はあれの身に何か良からぬことがあったのではないかと考えました。
おそらく、ミルティーユ様から魔糖石を受け取ったあと、何者かに襲われたのではないかと…。
しかしながらユベシの生体反応は感じるのです。
少なくとも殺されたのでないことだけは確かなのです。
そこでアマンド殿、私から御願いがあるのです。
どうか私の使い魔ユベシを探し出して頂けないでしょうか?
本当は主人の私がそうすべきなのでしょうが、いかんせん私は魔術師と名乗るのが恥ずかしいほど魔力の弱い身ですし、もしもユベシが悪い連中に捕らえられているのなら、とても私一人では太刀打ちできません。
勿論、あとでお礼はたっぷりと致します。
どうか、よろしくお願いします。
ウォルナッツより
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「ミルテ、これはお前の責任じゃぞ」
手紙を読み終えるなり、じいちゃんは私になじるような視線を向けた。
「そんな…。私てっきりユベシさんは無事に帰ったものだと思ってた。まさかこんなことになっているなんて…」
「言い訳はいいから、さっさと支度をせんか」
「え?支度って…なんの?」
私はきょとんとした顔でじいちゃんを見つめた。
「旅の支度に決まっておろう!ミルテ、お前がユベシを探しに行くんじゃ!」
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