第13話 新しい仲間

その日の午後、サントノレ号は観光地マカロンシティへと寄航した。


この豪華客船サントノレ号の最終到着地点は月餅王国だが、途中で様々な観光地へも寄航するのだ。


やっと船から下りた私達は、街の中心部へと向かう乗船客団体とは反対方向に足を運び、カヌー乗り場へとやって来た。


「こんな小さな船で行くのか?日が暮れるどころかじいさんになっちまうぜ」


ロムが不服そうにカヌーを見やる。


「私を誰だと思ってるの、ロム?凄腕魔術師アマンド・バニラの孫娘、ミルティーユよ?ちょっと魔法を使えばモーターボート並みに速度を上げることだってできるんだから」


「へぇ、三流のお前にそんなことができるのか?」


相変わらず失礼な奴…。ようし、見せてやる、私の本気の力を。


私は懐から杖を取り出し、カヌーに向かって呪文を唱えた。


ほどなくして、まるでエンジンがかかったかのようにカヌーが振動する。


「へぇ。三流にしちゃ、やるじゃねぇか」


誉めてはいるものの、どことなく馬鹿にした口調だ。


私はロムを無視してカヌーの中へ乗り込んだ。


しかし、足を乗せたちょうどその時、突然ロムが「おい!」と怒りの声を上げた。


私に向けての言葉ではない。


私達と一緒にカヌー乗り場までやって来た、もう一人の人物に向かって声をかけたのだ。


「何で無関係のお前まで乗ろうとしてんだよ、ロン毛!とっとと船長のとこへ帰れよ!」


そう。偽物の乗組員、ロン毛のラズベルだ。


「冷たいなぁ。僕達友達だろ?仲間に入れてくれたっていいじゃないか」


ラズベルはヘラヘラ笑いながらさりげなくロムの肩に腕を回した。


「"友達"だと…?俺を殺そうと企んでいた奴が何ほざいてやがる!虫酸が走るぜ、まったく!」


ラズベルの手を振り払いながら、忌々しげに顔をしかめるロム。


しかしラズベルは相変わらずヘラヘラ笑っている。


「だからさっきも説明した通り、僕は君の首にかけられた懸賞金なんて全く興味ないんだってば。あの新聞の切り抜きだって今朝船内で偶然拾っただけなんだから」


どことなく胡散臭さを感じる口調ではあるが、少なくともロムに対する殺意は感じられない。


「いいじゃない、ロム。ラズベルも連れて行きましょうよ」


私は声を低くしてロムにそっと囁いた。


「私達の事情も全て知られてしまったわけだし、彼はカヌーのレンタル料も払ってくれたのよ。考えてみればあなたは昨夜お酒を奢ってもらったっていうし、私は今朝朝食をごちそうになったし、きっと腐るほどお金を持っているに違いないわ。こんなにお金を持っているんだもの、たかだか一億πのためにわざわざ危険をおかしてまでロムを殺そうなんて、そんな馬鹿な真似しないわよ」


「チッ…仕方ねぇな」


ロムは威圧的な視線をラズベルに向けた。


「だが、一緒に来る以上はいざって時に役に立ってもらうから覚悟しとけよ!なんたって俺たちが今から行く場所は恐ろしい悪魔の家なんだからな」


"いざって時"…つまり負けそうになった時ってことか。


きっとロムのことだから、最悪ラズベルを盾にして逃げようと考えているのだろう。


しかし、ラズベルにはロムの脅しの言葉などまったく効いていないように思われた。


「それは楽しみだなぁ。僕、危険な冒険って大好きなんだ」


嬉々とした表情で声を弾ませる彼を見て、私もロムも思わず唖然としてしまった。

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