第11話 誕生日プレゼント
わしの一日は青竹踏みから始まり、青竹踏みに終わる。
なんでも冷え症やメタボ、腰痛、肩凝りに効くんだとか。
そして今日もわしは、いつものごとく早朝五時から青竹を踏んでいた。
――――ああ…この気持ちの良い痛さ…。徹マン明けの体にはたまらんのぅ…。
ホホホ…。昨夜は久々にわしの家で麻雀大会をやったのじゃが、実に楽しかったわい。
しかし、ミルテのやつは一体どうしたんじゃろう…。
結局昨日、夕方近くに家を出て行ったきり、いまだに帰ってこない。
ハッ…!まさか…悪い男に引っ掛かって、昨夜はその男と一夜を共に…?
ううむ…。ああ見えてミルテももう十五歳だからのぅ…。
それともわしの考え過ぎか…?
そうじゃのう…。あの寸胴体型でちんちくりんのミルテに限ってそれはないか…。
さて、と。青竹踏みもこのくらいにして、朝食でも食べるとしよう。
目玉焼きを作るのは面倒だから、シリアルにするか。
わしはキッチンへと向かい、シリアルの入った瓶を取りに、収納棚の扉を開けた。
しかし開けた瞬間―――
「ふがっ…!」
扉の中から大きな布のようなものが、バサリとわしの顔面に落ちてきた。
「なんじゃこれは…?」
広げてみると、所々に薄茶の模様が入ったローブだった。
中々上等な生地で作られているようだが、はて…こんなローブうちにあったかのう?
―――ああ、そうじゃ!
今日はわしの誕生日ではないか!きっと、ミルテがわしの誕生日プレゼントとして買っておいてくれたんじゃろう。
そうかそうか。それで昨日、一昨日と、なんだか様子がおかしかったわけじゃな。
ミルテはわしが今日シリアルを食べると想定して、こんな風に戸棚に隠しておいたに違いない!
うう…泣かせるのぅ…。
わしはそのローブを力いっぱい抱き締めた。
しかしミルテは一体どこに行ってしまったのじゃ…。
するとその時、家のドアをノックする音が聞こえた。
ミルテ…やっと帰ってきたか。
わしは満面の笑みでドアを開け、ミルテを迎えた。
しかしそこに孫の姿はなかった。
「お…お主は…!」
わしの目の前にはいたのは、一匹のコンドルだった。
コンドルは、わしの顔を見るなり丁寧な口調で喋り始めた。
「アマンド様、おはようございます。こんな朝早くに申し訳ありません。実はご主人様のご友人であるあなた様に、ちょっとお尋ねしたいことがあって参りました」
“ご主人様”というのは、わしのマブダチの一人、ウォルナッツ・ノチェロ・シュクルブランのことだ。
ついでにこのコンドルはウォルナッツの使い魔で、名はユベシという。
「先日、ご主人様がどこかに魔糖石の入った箱をお忘れになったそうなのですが、アマンド様はご存知ありませんか?」
「おお、それなら昨日、孫娘のミルテが届けに行ったと思うが?」
するとユベシは訝しげに首を傾げた。
「そのような方はお見えにはなりませんでしたよ」
なんじゃと…?
「おかしいのぅ…入れ違いにでもなったんじゃろうか…?」
突然ユベシは何か思い出したかのように「あっ」と声をもらした。
「そういえば、昨日ご主人様は予約していた豪華客船サントノレ号に乗る予定だったのですが、少々事情がございまして、直前になって急遽乗船をお止めになったのです。結局昨日は同じホテルに宿泊したのですが…。ひょっとしたらアマンド様の孫娘様はご主人様と入れ違いになって…」
そうか…。ウォルナッツがサントノレ号に乗ると聞いて探しに行ったのかもしれん。
きっと探しているうちに船が出港したんじゃな。だからミルテは帰って来ないわけか。なるほど。
じゃが…ミルテの奴一人で大丈夫じゃろうか…。
まぁ、そのうち元気に帰ってくるか。
なんたってあれはわしに似て中々肝の据った娘じゃからのう!
「で、ウォルナッツは今どこにいるんじゃ?まだホテルか?」
「いいえ。ご主人様は先ほど始発の船で月餅王国へと向かわれました。なんでも近々その国で開催される麻雀選手権に出場なさる予定だそうで」
ほう…!ウォルナッツが一昨日やけにそわそわしていたのはそういうわけじゃったか。
「しかしミルテにはどうやって魔糖石を届けさせたらよいじゃろうか…?」
「それなら問題ありません。わたくしが今すぐミルテ様の元まで受け取りに参りますから」
おお!その手があったか!
わしはすぐさまミルテの私物を探しに家の中へ戻った。
少しでも捜しやすいよう、ユベシにミルテの匂いを覚えさせるためだ。
「ふむ。これが一番よかろう」
わしは急いで玄関口に戻り、ユベシの首にミルテの私物をくくりつけた。
「頼むぞ、ユベシよ。あと、ミルテに“誕生日プレゼントありがとう”と伝えておいてくれ」
「かしこまりました、アマンド様」
ユベシは礼儀正しく一礼すると、天高く飛び立って行った。
さて、今度こそ朝食にしようかのう。
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