第47話 兄弟対決?
朝……いつものように、
「おい、カレン!! お前は食いしん坊だな。誰に似たんだ?」
「ちょっと、トリスタン。本当にこの馬の名前を[カレン]にしなくても……」
「知ってるか? 馬のカレン。お前より、人間のカレンの方が、じゃじゃ馬なんだぞ」
馬の[カレン]にわざとらしく話しかける。トリスタンは、あの告白の日から何も変わっていない。答えを急がせることもなく、私の心がトリスタンだけを見つめるのを待ってくれている。
牧場には、平穏な時が流れていた。
「おーい! カレン! トリスタン! お客さんが来てるぞ 」
お客さんって誰だろう? 二人で顔を見合わせ肩をすくめる。
リビングに戻ると、二人を待っていたのはアンソニーだった。
「コロラド・パリセードでワインの品評会があったんだ。カレンとも連絡が取れないし、きちんと
コロラド・パリセードはワインの産地で、アーチーズ国立公園からは、車で約1時間半程の距離だった。アンソニーは、母親から預かって来た特製手作りオートミールクッキーを手渡す。
「アンソニー、お前……。どうしてここにカレンがいると知ったんだ?」
「カレンに何度電話をしても、通じなかったから、信二と康代にカレンの居場所を教えてくれないのなら、仕事でもプライベートでも今後一切、付き合いをやめるって言ったんだ。そうでも言わないと康代はカレンの滞在先を教えてくれないからね。でも、トリスタンの牧場だと聞いて驚いたよ」
アンソニーは、私の目を見て……
「カレン、少し二人で話がしたいんだけど……」
アンソニーが、二人きりになりたいと言っている。きちんと向き合わないとダメだよな。でも……
「アンソニー、カレンから話は聞いてる。お前、カレンと付き合ってるのに他の女と寝てたんだろ?」
アンソニーは驚きの表情を隠せない。
「トリスタンには、関係ないことだよ」
「なんだと! 自分の女に悲しい思いをさせておいて、その言い草はないだろう! 」
「僕は、あの時……睡眠薬を飲まされたんだ。眠っている時に起こったことは僕の意思とは、なにも関係ない。愛してるのはカレンだけだ! 」
「ジーナの愛犬、ロキシーが死にそうだと言ってきたのは、ジーナの嘘だったの? アンソニーは、ジーナに睡眠薬を飲まされて眠っていたの? 」
アンソニーの言葉に早口で問いただす。
「そうだよ。カレンへ何度もメールや電話をしたのに、聞いてくれようともしなかった。僕は眠っていて、何が起こったのかさえ知らなかったんだよ。信二と康代から
「アンソニー!! お前がそいつと何の関係がなくても……俺とカレンがそういう関係になったから、カレンのことは諦めてくれないか? 」
うぅっ。秘密のはずじゃなかったのトリスタン。今……ここで言うことじゃないような……。
「カレン。トリスタンの言うことは本当なのか?」
「ごめんなさい。酔っていて最後まで記憶はないんだけど、朝、起きたらトリスタンが横に寝ていたのは事実なの」
「カレン。トリスタンのことを本当に愛しているのか? 酔って記憶がないのなら、それは愛しているうえでの行為ではないんだよ」
私は、どう答えて良いかわからずにいたが、正直に自分の気持ちを伝えたかった。
「アンソニー。私はアンソニーとジーナのベッドシーンを見てしまって、すごいショックを受けたの。何度もあの場面を頭の中からかき消そうとしたんだけど、無理だった。そんな状態で、ここへ取材に来たの。ここの自然や馬たちは私の心を癒してくれた。そして、アンソニーに似ているトリスタンに惹かれたの。まさか、兄弟だったなんて知らなかったけど……」
「トリスタンは、僕に似ていても僕の身代わりにはなれないよ。カレン、僕の気持ちは少しも変わっていない。君を愛している。取材はあと数日で終わるんだろう。もう一度、僕と付き合う事を考えてくれないか? 取材の最終日に君を迎えにくるから、僕と一緒に来るか、ここに残るかを決めてくれ。トリスタン、それでいいな? ……お前もカレンを愛しているんだろう」
「アンソニーわかったよ。決めるのはカレンだ! 」
アンソニーは、それ以上何も言わずに悲しい顔で牧場を後にした。アンソニーに睡眠薬を飲ませたジーナ。悪いのはジーナなのに、アンソニーは、私に悲しい思いをさせてしまったことすべてを自分の非として受け止めている。そのうえ、トリスタンとの関係を聞いてもなお、私との関係を修復したいと言ってくれた。
牧場を去る、アンソニーの後ろ姿を見送っていると、今すぐ駆け出して、思いっきり抱きしめたい衝動に駆られるが、ぐっと抑える。
私の横には、トリスタンが立っている。
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