第39話 最悪な相性!!

  翌日、朝早く目を覚ました私は、馬小屋へと飛んでいく。馬達を写真に収めたかったのだ。朝靄の中、清々しい気持ちで厩舎の中へ走って行くと、トリスタンが、一人で馬のブラッシングをしているところだった。



 あっ!! この前、トリスタンが調教していた白い暴れ馬だ。


 馬は、落ち着いた様子で、鼻をクックッと鳴らしながら、口をモグモグと気持ちよさそうに動かしている。


 馬と心を通い合わせているトリスタンの姿は……静寂の中にあってスポットライトを浴びているような輝きを放っていた。


 

 綺麗だな!!


 持ってきたカメラでトリスタンと白馬をパチパチと写す。朝日が差し込む厩舎きゅうしゃの中で、白い馬とトリスタンの金髪がキラキラと輝いている。



 トリスタンって……やっぱりアンソニーによく似ているな。


 少しだけ、うっとりと眺めていると……



「なにをボケーっと見てるんだよ!! お前、俺に見惚れてただろ? 」


 な……なんて奴!!


 一瞬でも、アンソニーに似てると思ったのが大間違いだ。アンソニーは絶対にこんな乱暴な言葉を私に使わない。


「馬に見惚れてたんですよ!! トリスタンになんか、見惚れるわけないじゃない!! 」


「お前、馬の世話したことあるんだろ。そこにブラシがあるから、こいつにブラシしろよ。見惚れるぐらい見てたんだからな」


 突然の申し出に戸惑うも、


「わっ、 わかったわよ。ブラシをすればいいのね!! この子は、あなたと違って本当に可愛いから、喜んでブラシするわ。でも、もし……あなたの髪にブラシしろって言われたら、絶対にお断りよ!! 」


 今さら、アンソニーに似ているトリスタンに見惚れていたなんて、口が裂けても言えない。こんな憎たらしい奴にならこれくらい言っても大丈夫だろう。


「ところで……この白い馬の名前はなんていうの? 」


「こいつは、まだ名前がないんだ。じゃじゃ馬そうなメスだから……カレンて名前もいいかもしれないな!! 」


「えっ〜? もしかして、それって……今、思いついたの? 」


「そう。お前の生意気そうな顔を見て思いついた」



 やっぱり信じられない!!



 私は、トレスタンを睨みつけながら白い馬のブラシを始める。トレスタンは、そんな私のことなど気にする様子もなく、馬を一頭、一頭撫でながら、体調のチェックをしている。


 馬達には、優しいんだな。 


 それにしても……


「嫌な奴!! 」


 ちょっとだけ唇を尖らせながら、不意に口から漏れてしまう。


 「馬の世話してる時は、馬のことだけ考えろ!! 」



 ううっ〜。聞こえてたんだ。地獄耳だぁ〜!!


 トレスタンと私の相性は、最悪だった!!

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