第38話 意地悪な兄と親切な弟

 パリオット・メサの素晴らしい景色が見渡せるテラスのテーブルには、エレナのオーガニックガーデンから収穫されたフレッシュな野菜や焼きたてパン、マッシュポテトなどが並べられていた。


 今日のメインデッシュはフィレステーキ。アルフレッドが、テラスのバーベキューグリルで焼いている。


「ステーキの焼き加減は、ミディアムでよかったかな? 」


 アルフレッドが、バーベキューグリルから、熱々でジューシーな肉を取り出し、各自の皿に盛り付けてくれる。


「カレン、いっぱい食べてね」

 エレナが、サラダのドレッシングを差し出しながら微笑んでいる。


 ワインボトルを開けてくれたのは、ヘンリーだった。キャッスル・クリークワイナリーのモニュメントレッドは、濃厚な中にフレッシュなチェリー味がスパイスされている地元のワインで、アーチーズ国立公園の奇抜な岩がラベルになっている。


 「美味しそうですね。いただきます!!」

 熱々のステーキとワインを飲みながら食事が始まった。


 

 「カレン、この三人は兄弟に見えないでしょう? まるで違う顔ですものね」

 笑いながらエレナが話しかける。


 言われて見ると、確かに三人の顔は似ていない。


 アルフレッドは、黒髪に近いブラウンの髪にブラウンの瞳。ヘンリーの髪は赤毛で瞳はブラウン。


 トリスタンは、少しダークめな金髪に紺碧あおい瞳。よく見ると少しだけアンソニーの顔に似ているような気もする。


 兄弟なのにまるで違う容姿だな。


「カレン、僕が一番ハンサムだろう。ハハハ……!! 僕の顔だけ覚えてくれればいいよ」

 茶目っ気たっぷりな笑顔で囁いたのはヘンリーだった。


「顔だけでなく、三人とも性格が違うのよ」


 エレナがクスクスと笑いながら教えてくれる。顔だけじゃなくて、性格も違うんだ。三人の顔を見比べ、それぞれの性格がどんな感じなのかなと考えていた。



「カレン、明日の朝、一緒にトレッキング乗馬に行こう!」

ヘンリーが笑顔で誘ってくれる。


「はい。行きたいです!! こんな素敵な景色の中、乗馬できるなんて……今から楽しみです!! 」


 私が答えると……


「お前、馬に乗ったことあるの? 」

ぶっきらぼうに、初めて言葉を交わしたのが、トリスタンだ。


「一応……乗馬は得意なんですけど……」


「それならいいけど……。下手な奴が馬に乗ると馬銜はみ(馬の口に噛ませる棒状の金具)をグイグイと強く引っ張って、馬たちが痛い思いをするからな……」


「あっ、はい。気をつけて乗るようにします」


「トリスタン。そんな言い方はないだろう!! 」

 ヘンリーが怒りながらトリスタンに言い返す。


「俺は、本当のことを言っただけだ!! 」



 トリスタンって、感じ悪いな! ……脳裏にそんな考えが浮かんだ時……


「カレン、トリスタンの言葉なんて気にしなくていいからね」

 ヘンリーが、気を使って慰めてくれる。


「ヘンリー、その女が気に入ったのか? 」


「なんだと……。トリスタンに関係ないだろう!!」



 二人の言い合いを鎮めてくれたのは、アルフレッドだった。

「トリスタン、言葉に気をつけろ! ヘンリーも子供みたいにムキになるな! 」


 アルフレッドの言葉を呆れ顔で見守っているエレナ。私は、黙って苦笑いするしかなかった。





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