第37話 麗しの三兄弟編 イケメン三兄弟登場

 ロサンゼルス経由で、ソルトレイクシティ空港へ到着したのは、午後二時を少しすぎた頃だった。ロサンゼルス空港と比べると、遥かに小さなこの空港で、迎えに来る予定のヘンリーの姿が見つからない。


 ヘンリーは、牧場の三兄弟の一番末っ子で、私より5歳年下の29歳。

編集長の康代さん情報によると、ちょっとやんちゃで気分屋な性格で上の二人と違い、都会に憧れているタイプらしい。長男のアルフレッドは、しっかり者で町の町長をしている。次男トリスタンは、ちょっと無口で馬の扱いが一番うまく、牧場を支えているのが、このトリスタンだ。


 どこかで渋滞にでもあってるのかな?


 飛行機が到着してからすでに45分も経っている。キョロキョロとあたりを見渡していると……。


「もしかして……君がカレン? 」


 走りながら声をかけてきたヘンリーは、ウエスタンブーツにウエスタンハット、ジーンズにはウエスタンバックルベルトという、まさに西部劇に出て来るようなスタイルでの登場だった。


「ごめんよ。来る途中、渋滞に巻き込まれてしまって、遅くなってしまったんだ。心配しただろう。荷物を持つよ」


「あっ。ありがとうございます。カレンです。よろしくお願いします」


「あっ、僕はヘンリー。よろしくね」


 ヘンリーのピックアップトラック4WD日産タイタンで牧場までの道のりをドライブする。ヘンリーは爽快なカントリーミュージックが好きなようで音楽を口ずさみ、ドライブしながらカウントを取るようにポンポンと手でタイミングを取り、ハンドルを叩いている。


「カレンは、馬に乗れるの? 」


「あっ、はい。乗馬は得意です。祖父が、牧場を経営していたので、小さな頃から乗馬していました」


「そうなんだ。じゃ、牧場での生活も大丈夫だね」


「はい。馬小屋の清掃でも餌やりでもなんでもお手伝いできます」


「馬が好きでよかったよ。あの匂いが嫌いっていう女性も多いからね」


 牧場までの道のり、馬の話やロディオの話など田舎暮らしについて色々と教えてくれた。




 ユタの大地は、思った以上に乾燥しており、荒野を吹く風がヒューと砂埃すなぼこりを上げて吹き抜けている。ふと車の外の景色をみると、赤茶褐色あかちゃかっしょくの岩があちらこちらに見え、まるで西部劇の中に紛れ込んだかのような景色だ。


 牧場は、アメリカ観光で有名なグランドサークルと言われている地域に位置しており、アーチーズ国立公園からも近く、コロラド川沿いで赤い岩山のパリオット・メサが見える西部らしい風景の場所だった。



「さぁ、着いたよ」


 車が到着すると、家の中から出てきたのは、アルフレッドと妻のエレナだった。


「カレン、ようこそ我が家へ。今日から三週間、牧場生活をエンジョイしてね」

 

 エレナは、笑顔でカレンにハグをする。


「今日からお世話になります。それにしても、ここは素晴らしい景色ですね。こんな素敵な場所は、初めてです」


 「ここは、特別な場所でね。西部劇の撮影だけじゃなく、たくさんの映画撮影現場にもなってるんだよ。日本のコマーシャルなんかもよくここで撮影されているんだ」


 アルフレッドが、自慢顔で説明してくれる。


 「荷物を置いたら、僕がこの辺を案内してあげるよ」


 カレンのスーツケースを車から降ろす作業をしながら、ヘンリーが叫んでいる。取材とはいえ、初対面はいつも緊張するが、みんな優しい人たちでよかったとホッと胸をなでおろす。



 大きなログハウスの建物の中へ入ると、二階の客間へと案内される。


 部屋の窓からは、パリオット・メサが見える素敵な景色だ。いつまでもずっと、眺めていれそうなくらい心奪われてしまう。


 パリオット・メサは、Jon Bon Jovi《ジョン・ボン・ジョヴィ》 - Blaze Of Glory 《ブレイズ・オブ・グローリー》のミュージックビデオを撮影した山としても有名だ。



「カレン、着替えて落ち着いたら厩舎きゅうしゃに行こう。馬たちを紹介するよ」


 スーツケースを部屋まで届けてくれたヘンリーが笑顔で誘う。

 


◇ ◆ ◇


 ジーンズとシャツに着替え、ブーツを履き、ヘンリーに誘われるまま、厩舎きゅうしゃへと向かう。


「ここには20頭の馬と5頭のラバがいるんだよ」


 厩舎きゅうしゃでは、馬たちが顔を覗かせこちらを興味津々な顔で見ている。厩舎きゅうしゃの中に漂う牧草の匂いは、どこか懐かしく心をほぐしてくれる。


「明日から、お手伝いしますね」


 馬の世話は、久しぶりなのでワクワクする。



 厩舎きゅうしゃを出て、ふと横を見ると丸馬場まるばばで誰かが、馬の初期調教ブレーキングをしている姿が目に入る。


 白い馬が、たてがみをなびかせ、懸命に円の中を走っている。馬はかなり走り込んだようで、汗が夕陽にキラキラと輝いている。そのうち、疲れてしまったのか、立ち止まると中央に立っている調教師の後ろにぴたっと寄り添ってきた。


 調教師は、さっと白い馬のたてがみをつかみ、そのまま馬に飛び乗った。馬は、驚き、前足を上げて振り落とそうとするが、調教師のガッチリした腕でつかんだたてがみと脚力で馬を押さえ込みコントロールすると、馬は、嘘のように大人しくなり、調教師の指示に従いゆっくりと歩き出す。


「トリスタン!! 調教、上手くいったようだな」


 ヘンリーが話しかけた調教師が、次男のトリスタンだった。


「カレン、トリスタンは、馬と会話が出来るんだよ」


「えっ、本当ですか? 凄すぎます。あんなに暴れていた馬が、こんなに言うことを聞いているんですから、馬とコンタクトする力が強いんですね」


 トリスタンは、ヘンリーに返事することもなく、無言で馬とコンタクトしているようだった。


「カレン、ヘンリー、トリスタン……。ディナーが出来たわよ」


 ロクバウスの自宅から叫んでいたのは、エレナだった。









 

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