第36話 男の性【さが】

 傷心を抱え日本に帰国した私は、何をする気にもなれず、そのまま一週間の休みをもらっていた。


 そんな時、ふとメールを見ると別れた琢磨たくまから連絡がきていた。


From:琢磨たくま

【カレン、あの子のお腹の子は俺じゃなくて、違うやつの子供だった。相手に妻子がいて自分とは一緒になれないと思い、俺の子供だといつわったんだ。相手の男が妻子と別れて彼女と一緒になることになった。彼女とは別れた!! 加恋カレンもう一度やり直せないか? 】


 なんなの、これ!!

 

 どいつもこいつも自分勝手だ!! 返事のメールもせずに速攻で電話番号とメールアドレスを削除する!!


バカ言ってんじゃないわよ!! 永遠に削除!! さようなら!! ポチッ!!


これからの私は、恋じゃなくて仕事に生きて行くんだから!!



 アンソニーからのメールもたくさん着信していたが、開くこともできず……かと言って……捨てることもせず、そのまま放置していた。まだ、冷静に対処するだけの心の余裕が、私にはない。


 読みたいけど……怖い!!

 知りたいけど……知りたくない!!




 アンソニーは、ジーナのことが好きだったのかな? どうしてあんなことになっちゃったのかな? 部屋に戻ってこなかったのはなぜかな? たんさんのはてな(?) マークが頭の中に浮かんでは消え、なぜの言葉が、こだまのように叫んでいる。


 アンソニーを信じたい……


 きちんと話をしたいと思う反面……どうしてもあの光景が目に浮かび、気持ちの整理がつかない。



 キスを見ただけなら、きっと……すぐに忘れられるのにな。


 私の許容範囲は、どうやらキスまでのようだ。こんな時に自分の許容範囲を知ってどうなるものでもないのに、こういうことをなぜか冷静に分析する自分がいた。


 私だって、ジャンと別れのキスをした。キスの時、好きになっちゃいそうで、心もざわめいていた。でも、アンソニーのことが一番好き!!


 人間って、生涯……一人の人だけを永遠に愛することができる動物なのかな? ゆらゆらと心が揺れて、流されそうになっても、理性が働いて抑えられるから、みんな結婚するんだよね。北海道に生息する丹頂鶴たんちょうつるは、一夫一婦制を守って生きる鳥として有名で、つがいが亡くなっても死骸を見るまで、他の相手を探さず永遠に愛を守るんだよな。人間が守れなかったら鳥以下になっちゃうもんな。



 頭の中で、答えの出ない人生における「愛の哲学」を考えていた。


 そんなことを一人悶々と考えていると……康代からのメールがきたことを知らせる携帯のピピッという音がなる。



From:康代

【次の世界の男図鑑ミッションよ。アーチーズ国立公園って知ってるでしょう。その近くに牧場があるの。そこの牧場主は、あの西部劇で有名な俳優、クリスの息子達よ。彼らは、映画俳優たちが馬に乗る時に指導する仕事もしてるんだけど、普段は自分達の牧場で馬に乗ってるわ。そう……もうわかったと思うけど、彼ら三兄弟を3週間取材するのよ!! 】



 わーっ!! 次の取材先は牧場か〜。牧場なら馬に乗れる。落ち込んでいた気持ちが少しだけ晴れてくるような気がした。馬たちと戯れたらきっと癒されるだろうな。


From:カレン

【了解しました。大自然の中の牧場で馬に乗って草原を駆け回ってきます】



 信二が、心配そうに康代とカレンのメールのやり取りを見ている。


「アンソニーからカレンが誤解してるとメールが来てたのを知ってるのに、君はカレンに伝えないのかい? 」


「伝えたからって、アンソニーとジーナの抱き合っていた残影ざんえいが、カレンの頭の中から消えることなんて永遠にないわ。今は、少し距離を置いて気持ちの整理が必要なの。だから、今回の取材は三週間。田舎だからメールのやり取りすらまともにできるかどうかわからないけど、カレンには癒しになるわ」


「じゃ、アンソニーは、どうすればいいんだい? 誤解されたままカレンと連絡も取れなくなるのかい? 僕は、アンソニーから相談を受けてるから、君の意見をぜひ聞きたいね」


「アンソニーは、アンソニーのままでいいのよ。カレンだって、心の奥底では、ジーナのくわだてだって感じてるのよ。でも、あんな激しい場面を見てしまったら女は誰だって動揺するし、いつまでもその残影ざんえいに苦しむのよ。敵ながら、ジーナの執念は凄まじいわね」


「そうか。じゃ、アンソニーはジーナがそばに近づかないように気をつけるしかないな」



 康代からのミッションを受け、カレンは、アメリカ西部・美形カウボーイ三兄弟の元へと向かうことになる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る