第32話 サプライズパーティ!?

 「キャー、シッ・シッ……。あっちへ行きなさい」


 マリアの叫び声がキッチンから響いてくる。


 朝食の用意をしていたマリアにロキシーが威嚇いかくしながら餌を求めて近寄ってきた。


「ロキシー、おいで。僕が餌をあげよう」


 朝早くジーナが一人で出かけてしまったため、ロキシーがお腹を空かしてキッチンに迷い込んできたようだ。アンソニーが餌を与えるためにロキシーをキッチンから外へ連れ出すと……マリアのぼやきが始まった。


「まったく、どんな躾をしたら、こんな犬になるのかね。この犬もかわいそうな育て方されてるよ。カレンもびっくりしたでしょう。ジーナはいつもみんなを振り回してわがままばかり言うんだよ。アンソニーは優しいから怒ることもせずに聞いてあげてるんだけど、あのわがままぶりは、手に負えないよ。今は、カレンと出会って、アンソニーが変わってきたからホッとしてるんだけどね。私は何があってもカレンの味方だよ」


 そういえば……一番最初にマリアに会った時にも味方になるって言われ、その時は意味がわからなかったけど、こういう意味だったんだ。


「マリアありがとう。アンソニーはジーナのこと、妹みたいだと言ってたわ。彼女の辛い幼少時代のことも教えてくれたの。だから、出来ればいいお友達になりたいんだけど……」


「ハハハ……。彼女とお友達になりたいと思った人はカレンぐらいだよ。それくらい、ひねくれちゃってるからね」




「なになに……。なんの話をしているのん?」


 ひょっこりデビットが登場し、マリアと私を驚かせる。今日はアンソニーのスタイリストとして、仕事の打ち合わせをしながら朝食を食べる日だった。


「デビット!!」


「カレン、元気だった? アンソニーとラブラブなんですってね。ちょっと腹だたしいけど、仕方ないわね」


「デビット、色々とありがとう。デビットからプレゼントしてもらったドレスはとても可愛くて私のお気に入りだよ」


「あ〜っら。それは良かったわ。でもカレン、リンダの件は悪かったわね。私もびっくりしちゃったわよ! 」


「いやいや、あれはデビットのせいじゃないよ。それに、驚いたけど、いい勉強になったよ」


「あなた、可愛いこと言うわねぇ〜。……ところで、カレン。今日はアンソニーの誕生日なのは知ってるわよね。アンソニーには内緒なんだけど、サプライズパーティを計画してるの。マリア達も手伝ってくれることになってて、アンソニーの友達が夜6時にここに集まってくるわ。悪いんだけど、それまでアンソニーをどこかに連れ出してくれない? 」


「わかった。私にできることはお手伝いするから言ってね」


「あなたは、アンソニーのおりをしてくれればいいのよ。おそらく、それが彼の一番の望みだと思うから、飾り付けとかパーティの準備は私たちに任せて! 」





「何を楽しそうに話してるの? デビットも来てたんだね」


 デビットと私は、顔を見合わせて、アンソニーに気づかれないように笑ってごまかした。


「ふふふっ。別に……何も話してないわよっ。それよりアンソニー……その抱きかかえている犬は、も……もしかして、ロキシーなの。ジーナがまた、ここへ来てるのね」


 デビットの鋭い指摘に、ジーナがここに来ている頻度を思い知らされる。


「週刊誌を見たらしくて、イギリスから飛んで帰って来たんだ」


「あ〜もう……なんてことなの !! ジーナにだけは見てもらいたくなかったわ……。で、カレンとの仲を邪魔しに来たってわけね。ねえ〜、カレン。あなた大変よ。手強いわよ。でも、リンダを紹介した私にも責任があるわね。何かあったら相談にのってあげるわね」


「……ありがとう、デビット」




◇ ◆ ◇


「アンソニー、お誕生日プレゼントを買いたいんだけど、何か欲しいものはない? 」


「モノは何もいらないよ。誕生日プレゼントをくれるなら、カレンと一緒に過ごしたいな。二人でドライブなんてどう? 」


 にっこり微笑みながら、答えるアンソニーを見て、デビットがたまらなくなり言葉を投げかける。


「ちょっと、もう〜。なに、このラブラブぅ〜。アンソニーは、ポーカーフェィスなイケメンって今まで言われてきたのに、カレンに対してだけはこんなニコニコ顔で、デレデレするのね〜。ちょっとくやしいわねぇ」


 デビットの言葉に照れてしまい、顔が真っ赤になってしまう。




「アンソニー、サンノゼまで行って見ない? そこに日本のスーパーマーケットやラーメン屋さんとかあるの。ラーメンって食べたことある?」


「ラーメン? 聞いたことはあるけど、食べたことはないよ」


「そこのスーパーの中に北海道ラーメンのお店があるの。お昼をそこで食べて、その近くのダインソーっていう私の好きな安売り店があるからのぞいてみない? 」


 この地区には、たくさんの日本人が住んでいるため、日本のスーパーマーケットやおいしいパン屋さんもある。日本のことを少しでも知ってもらいたかった私は、ドライブするにはちょうど良い距離のサンノゼまでのドライブを提案する。


「サンノゼには、仕事で行くけど、日本のスーパーマーケットがあるなんて知らなかったな。ラーメンも食べてみたいし、今日は二人でサンノゼまでドライブに行こう!! 」



◇ ◆ ◇


 アンソニーのお気に入り、長くて舌を噛みそうな名前の車・アストンマーティン・ヴァンキッシュ・ザガートに乗って、サンノゼのミツワン・マーケットへと走らせる。ミツワン・マーケットに着き、マーケットの中に入っている北海道みそラーメンを食べ、日本のお菓子やお酒などをたっぷり買い込んだ。


 隣接するダインソーでは、アメリカにはない可愛い雑貨を二人で見て、小さなキャラクターのついたキーホルダーをお揃いで購入した。


 パリスン・ベーカリーでは、日本人パテェシエによる、繊細で上品な日本人好みの手作りケーキを頬張った。


「ここのケーキは美味しいね。甘さ控えめなのにコクがある。きっと、厳選した素材を使ってるんだね」


 アンソニーの喜ぶ顔が見れてよかった。


 マーケット内には日本の本屋さんもあり、神社やお寺などの写真集とためされちゃう大地・北海道というタイトルの写真集を見つけた。いつかアンソニーに北海道を案内したいな。そんな、思いを抱いて、写真集をプレゼントする。


「カレンの男図鑑の仕事が終わったら、日本に遊びに行きたいな。日本には何度か行ってるけど、プライベートで行ったことはないんだ。北海道でカレンと一緒に本場のラーメンを食べたいな。味噌ラーメン、すごく美味しかったからね。ありがとう、カレン」


 アンソニーは、カレンの案内ではじめてプチ日本を体験し、満足した気持ちでいっぱいだった。

 

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