第31話 強敵はチワワ?!

 " ワン! ワン! クゥ〜ン " 🐕


 シャンパンを飲んだ後、部屋へ戻りドアを開けるとベッドの上に小さなチワワがもぐり込んでいた。


「ロキシー。お前も来てたのか……。おいで」


 小さな犬は、尻尾しっぽを振り、飛び跳ねながらアンソニーに駆け寄り、鼻をつけて甘えてくる。


「わぁー可愛い! 」


 頭を撫でようと手を伸ばすと、牙をむき出し威嚇いかくしてくる。


「きゃー」


「ごめんよ、カレン。ロキシーは、ジーナの犬で、僕とジーナにしか懐かないんだ。ジーナが、二人の邪魔をするためにロキシーをそっと部屋に紛れ込ませたのかもしれない」


 「そうだったんだ。私……犬とか動物には好かれるのに、どうしてこんなに威嚇いかくしてくるのかな?」


「ジーナが躾けたのさ。僕とジーナ以外の人には、懐かせないようにね」


「そんなことができるの? 」


「ああ……出来るよ。人に懐きそうになるとジーナが狂ったように怒るのさ。かわいそうに、ロキシーは普通の環境で育ってはいないんだ。ジーナ自身が複雑な環境で育ったから心の問題を抱えていて、小さな頃から僕のお嫁さんになると思い込んでる。カレンには嫌な思いをさせてしまってごめんよ」


「そうだったんだ。ジーナもロキシーも大変な環境なんだね」


 ロキシーは、アンソニーの腕の中で嬉しそうに尻尾を振っているが、私には、威嚇いかくし続けるそぶりを見せる。


「ジーナは、すごく気性が激しいけど、とてもさみしがり屋なんだ。実は、ジーナの母親が、ジーナ達がまだ小さかった頃、好きな男が出来たと言って家を出て行ってしまったんだ。残された父親も荒れてね。近所に住んでいた僕の両親がポールとジーナを不憫に思い、父親が仕事の時、彼女たち兄弟の面倒をみることにしたんだ。2年後に父親が再婚したんだけど、ジーナは義理母にいじめられて、いつも泣いてた。そんな時は、逃げるように僕の家に泊まりにきて、僕の家族と過ごしてたんだ。彼女は僕の両親がいつか本当の両親になったらいいなと思うようになったんだと思う。僕のお嫁さんになるって言い出してね。それからずっとそう思い込んでるんだ。僕は、ジーナを一度も恋人としてみたことはなくて、妹と思って接してるんだけどね」


「そうだったんだ。ジーナも辛い思いをしたんだね」


「彼女たちは、そういう辛さをダンスで発散させてきたんだと思う。ポールもジーナもダンスが認められて学校もずっとスカラシップで通ったんだ。自分たちで親の力を借りずに道を切り開いたのさ」


「すごい努力だね」


 世界のトップになるということは、どんな分野の人でも、影で相当な努力をしているというが、二人もすごい努力をしたんだろうな。


「でもね。根は悪い子じゃないんだけど……。ジーナは母親に捨てられたトラウマから、人間不信になっちゃって、人を寄せ付けない性格になっちゃったんだ」


「アンソニー。ジーナとお友達になれるようにがんばるね」


「ありがとう、カレン。カレンのような自然体の人ならジーナの心も開けるかも知れない」




……とは言ってみたものの、かなり難題かもしれないな。ジーナはかなり強烈なキャラだし、何と言ってもこのチワワのロキシーも手ごわそうだもんな。




 ロキシーをドアの外にそっと放したアンソニーが、部屋に戻ると、キャンドルに火を灯し始める。キャンドルの甘い匂いが部屋中に灯ると、最後にバスルームのキャンドルに火を灯す……


「カレン、やっと二人っきりになったね」


 アンソニーお気に入り Ed Sheeran の曲が流され……部屋に置かれたワインクーラーから取り出した「スクリーミング・イーグル」のコルクをあけるとリーデル (RIEDEL)のグラスに注いでくれる。


「カレン、このワインは君と一緒に飲みたいと思ってオークションで手に入れたんだよ。さぁ、ジーナのことは忘れて一緒に飲もう」


「スクリーミング・イーグル? 名前だけは聞いたことあるけど幻のワインだよね」


「そうだね。なかなか手に入らないかな。だからこそ、カレンと二人で特別な日に飲みたかったのさ」


「アンソニー、今日は何か特別な日なの? 」


「僕の誕生日だよ」


「えっ……?! アンソニーの誕生日なの!? ……ごめんなさい。私……アンソニーのこと何も知らなくて……」


 私はアンソニーの誕生日すら知らなかった。もっとアンソニーのことを知りたい。こんなに大好きなのに……。ごめんね。


「謝らなくてもいいよ。正確には、あと1時間後の明日が誕生日なんだ。どうしてもカレンと一緒に誕生日を迎えたくて、用意してたんだ」


「アンソニー……」


「僕たちは付き合って日が浅いから、お互いのことをまだよく知らない。もっと知る必要があると思わないかい? 僕はカレンの事をもっと知りたいな。何が好きで、どんなことが嫌いとか……」


「私もだよ。アンソニーのこともっと知りたいし、アンソニーにふさわしい女性になりたい」


「カレンは、僕にとって最高の女性だよ。君といると僕が僕でいられるし、いつも笑っていられるんだ」


「ありがとう。私……アンソニーのこと……世界で一番大好き! 」


アンソニーに抱きついて、初めて……自分からキスをした。





「カレン、君の一番好きな食べ物は何? 」


「私の一番好きな食べ物は……えっと……」


食べることが好きな私に一番を決めるのはとても難しい。でも……


「アンソニーの作ってくれたスウェーデン風パンケーキ!! 」


「カレン……愛してるよ、ありがとう!! 君が望むなら、毎日でも作ってあげるよ」


もぅ〜、やっぱりアンソニーは優しいな。



「アンソニーに兄姉はいるの?」


「兄と妹がいて、僕は次男なんだよ。カレンは?」


「私には、弟が一人いるよ」


 スクリーミング・イーグルを飲みながら、二人で質問をしあい、お互いを理解しあった。


 キャンドルの灯と甘い匂い……そしてEd Sheeran の音楽は、心をメロメロに溶かしていく。


「アンソニー。誕生日なのに、何もプレゼントを用意してなくて……ごめんね」


「カレン。君自身が僕にとっては、一番のプレゼントだよ」


 着ていたドレスのジッパーを下ろし、下着を剥ぎ取ると……抱きかかえられてバスタブへと連れて行かれる。二人で泡の中に体を沈め、泡風呂の中に入り、子供のように泡で遊び、じゃれあった。


「カレン。綺麗だよ」


 アンソニーは、優しくバスタオルで体を拭いてくれると、そのままベッドへ運び、やさしく口づけを落とす。唇が、耳たぶを甘噛みし、首筋から乳首へと落ちていく。舌で転がされ、そのまま唇がさらに落ちて行く。体の芯ごと、とろけていく。


「アンソニー……」


「カレン。愛してるよ」


キャンドルの炎が揺れ、二人の夜は更けて行く。












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