第30話 恋のライバル登場!?

「カレン、今夜は面白いところにディナーの予約をしているんだ」


 アンソニーが、予約してくれたのは、ワイントレインのロマンティクディナーだった。ナパにあるワイナリーの葡萄ぶどう畑を走るレトロ調の列車でナパの街からセントヘレナの街まで3時間かけてゆっくり往復する豪華な観光列車だ。列車内では、一流シェフのフルコースとワインを贅沢に堪能することができ、ロマンティクなこのワイントレインは、カップルに大人気で予約がなかなか取れないことでも有名だった。

 


 アンソニーがリンダのお店で買ってくれたドレスを着て、ワイントレインに乗り込むと、列車はゆっくりとワイン畑の中を走り出していく。スパークリングワインで乾杯すると、アンソニーが見つめながら優しく微笑んでいる。


 アンソニーの笑顔はやっぱり破壊力抜群はかいりょくばつぐんで最強だな。


「アンソニー、この列車……畑の中を走るんだね。黄金色の夕陽に染まる葡萄ぶどうのひと粒、ひと粒が、夕陽に反射してキラキラ輝いてる! とても綺麗だね! それに、料理もワインもすごく美味しい。連れて来てくれて……ありがとう!!」


カレンの喜ぶ姿を見て、ニコニコ顔のアンソニー。


「君の喜ぶ顔が見れて本当にうれしいよ」



 夕陽が沈む中、ロマンティクディナートレインは、黄金色に染まる空とナパの葡萄畑の中をゆっくりと走り抜けていく。



「そういえば……カレン、デビットが週刊誌に情報を売ったリンダの件を謝ってたよ」


「デビットのせいじゃないから、デビットが謝ることないのにね」


 デビットが、紹介したブティクオーナー・リンダがアメリカゴシップ雑誌" My Star "に情報を流したことへの謝罪だった。


「そうだね。でも、カレンはゴシップ雑誌に書かれたのも初めてで、突然の事だったからビックリしちゃっただろう?」


「うん。すご〜くビックリしちゃったよ。アメリカの週刊誌に自分の写真が載るなんて……想像すらしてなかったから。……アンソニーは大丈夫だった?」


「ゴシップ系の週刊誌は好きじゃないけど……まっ、これでカレンと付き合ってるってみんなも知ったわけだし、取材を受けたら、堂々と交際宣言するつもりだよ」


「えーっ。堂々と交際宣言!? ……あのね、アンソニー。実は、編集長から、まだ交際禁止令が解かれてなくて、『世界の男図鑑』完成までは、アンソニーとも世間的には秘密のおつきあいなの」


「そうだったの? カレンがジャンを取材すると決まった時に康代から連絡が来て、三週間の取材期間を一週間短くして、カレンと一緒に過ごせるように許可をするから、取材が終了するまでは、黙って見守ってほしいって言われたんだ。それなのに、二人の交際を許可しないなんて、理解できないな。康代に確認してみるよ」


「編集長がアンソニーと一緒に過ごす休暇を手配してくれてたなんて、しらなかったよ。私からも、もう一度聞いてみるから、それまでは宣言しないで、ノーコメントでお願いします」


「僕は、世界中の人の前で交際宣言してもいいのにな」



 ワイン色に染まるグラスが、何度も口元に運ばれ、二人を酔わせていった。




◇ ◆ ◇


 カレンの肩を抱きかかえながら帰宅すると、……そこには、カレンの知らない金髪でエメラルドの瞳を持つ女性が待っていた。


 アンソニーの顔を見るなり走り寄り、横にいるカレンを押し飛ばし抱きついてくる。


「アンソニー!! 会いたかったわ〜💕」


「ジーナじゃないか……いつアメリカに戻ったの? 」


 突然登場したこのジーナという女性……妙にアンソニーになれなれしい。なんとな〜く感じる不吉な予感に、さっきまでのほろ酔い気分がすっかり冷めてしまう。


「あっ、カレン。この子はジーナ。ポールの妹だよ。ほら、覚えているかい。この前バレエ公演を観にいった時に会ったボストンバレエのポール。彼の妹で幼馴染なんだ。彼女もダンサーで今はイギリスで踊っているんだよ」


「ジーナさん、はじめまして。日本から来たカレンです。よろしくお願いします」


「アンソニー、週刊誌で見たわ。もうビックリしちゃったわよ。あの雑誌をみて、イギリスから飛んで帰って来たのよ。このと交際してるなんて嘘よね。私……ぜったいに許さないわよ」


えーーーっ。人の挨拶を無視して……そうきますか!?


「ジーナ、世間的には、まだ秘密だけど、僕たちは付き合ってるよ」


 さらっと、ジーナの言葉に返答するアンソニー。その横にいる私を怒りが収まらないという表情で睨みつけるジーナ。


「だ・か・ら……、そんなのゆるさないって言ってるでしょ!! 」




うわーーーっ。なんなんだこの展開!!



アンソニーが、呆れ顔でシャンパンの用意をしている。


「まずは、再会をで乾杯しよう」


「私は、アンソニーとで乾杯したいのに……」


 邪魔者がいると言わんばかりに、ふてくされながらグラスを手にするジーナ。こんなに気まづい状況でも、アンソニーは表情一つ変えない。




== ポーン!! ==


弾けるコルクの音が、ピストルの弾のように私の胸に突き刺さる。


 グラスに注がれたシャンパンには、ふくらんでは消えるはかない泡が、あとからあとから途切れる事なく、はじけている。


「アンソニー、今回も、しばらくここに泊まらせてもらうわよ」


 ジーナは、いつもここに泊まっているのだろう。自信満々に私を挑発するようにアンソニーに甘い声で呟く。




も〜う!! なんなのよ。


不安な気持ちを隠すため……グラスのシャンパンを一気に飲み込んだ!!






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