第24話 ジャン=クラウド編⑦ 女の敵は女!?

 パーティ会場の映画監督の自宅は、ビーチ沿いにある高級住宅地で有名人も多く住んでいる地区だ。自宅の前には大きな風船や装飾が施されており、パーティのための華やかさを演出していた。ごく親しい人を招いてのパーティとは聞いていたが、祝いに来ているメンバーの豪華さに驚かされる。


 わぁぉっ!! 行き交う人の顔を見るたびに心の中で叫んでしまう。


 映画のスクリーンで恋したあの俳優さんや恋の噂でいつも賑わせている女優さんが実物大で手を伸ばせばすぐの距離にいるのだ。


「カレン。監督におめでとうの挨拶に行くよ、……おいで! 」


 ジャンに連れられて、監督のもとヘ近づいて行くと、周りにはたくさんの美女達が群がっていた。どの女性も我先われさきにと体を密着させながら話しかけている。監督は、先月、有名女優と離婚したばかりで現在は独身。離婚した彼を巡り美女たちが争っているのだろう。そこへ、ジャンと私が近寄って声をかける。


「監督、お誕生日おめでとうございます」


 監督と周りの美女たちが一斉に振り返ると、群がっている美女たちの中で、ひときわ露出度の高いドレスを着ている女性が目に飛び込んで来る。


「アリー!」


 彼女も一瞬、驚いた顔を見せるが、私の声など聞こえなかったように無視を決め込み、鬼の形相ぎょうそうで私をにらみつけている。


「ジャン、ありがとう。今日はよく来てくれたね。もしかすると……こちらの可愛らしいお嬢さんが話題のだね。ハハハハ……」


「カレンと言います。お誕生日おめでとうございます」


「ジャンが女性と一緒に来るなんて初めてだから驚いたが、どうやら君には真面目な男たちを魅了する……色気以外の何かがあるんだろうね」


 ちらっと私の全身をみた監督の率直な感想だった。

 

 それにしても、色気以外って……。小さな胸でもズキンと痛むのは、同じなのにな。クスン……。


「あらっ。カレンなんて、何の魅力もないわよ。かんとくぅ〜。こんなとりえのない記者に興味なんて持たないで、私とジャクジーに入ってシャンパンでお祝いしましょ〜♡うっふん」


 ♫ ビクトリ・アンアン・シークレットのモデル・アリーに腕を掴まれて、監督はデレデレしながらジャグジーへと消えて行った。




「びっくりしただろう。これがハリウッドさ。モデルたちは、しゅんが短いからみんな生き残るために必死なんだ」


「そうだったんですね。色々と勉強になります」


「カレン、シャンパンで乾杯だ。今日はお酒も解禁だ。一緒に飲もう」



 シャンパンを手にジャンと二人、軽く乾杯をして微笑み合う。冷えてシュパーッと浮いては消える泡のグラスを一気に飲み干す。


 二人でシャンパンを飲んでいるとハリウッドスター・ジャン=クラウドの姿を見つけた人たちが周りに集まり、挨拶や近況報告をしだした。


 ジャンは、若手俳優や映画関係者の挨拶を受けている。邪魔をしないように、プールのある中庭で息抜きするためにそっと……その場から離れる。




 夜のプールは、床下からの照明が水に反射して、ブルーの色が綺麗に浮かび上がっていた。プール間際に腰掛けながら、シャンパンを口に含むと、自分には場違いなこの場所で、やっと少しだけ落ち着ける静かな場所を見つけたような気持ちになる。



「ちょっと、そこのちんちくりん! カレン。あなた、アンソニーだけじゃ物足りなくて、ジャンにまで手を出すなんて、絶対に許せないわ」


 ジャクジーに入ってるはずのアリーが、鬼の形相ぎょうそうで近寄って来た。どうやら、シャンパンを取りに来ると告げて、わざわざ文句を言いに来たようだ。


「私は、取材に来てるだけですので、アリーさんに怒られる理由がわかりません」


「そういうところが生意気なの。アンソニーもジャンも私達が口説いても目もくれないのに、あなたみたいなちんちくりんに優しくしてるのが腹立たしいの。私たちモデルがどれほど努力してここまで、のし上がってきたかわからないでしょう。なのに、なぜあなたなのよ」




ド〜ン ! バシャ〜ン!!!!


 何が起こったのか、わからない程のすきをついた一瞬の出来事だった。




 私の体は、深いプールに投げ出されていた。水が苦手な私は、泳ぐことが出来ず、学生の頃もプールの授業をサボっていた。アメリカのプールは深く、水深5.7メートルもある。慌てて手足をバタバタさせてはみるが、スローモションのように体が沈んでいくだけだ。


 ダメだ!


 もがいてはみるが、息ができない。そのまま、意識ごと沈んでいく。


「おい、誰かプールに落ちたぞ!」


 ざわめき始めた時、ジャンは溺れているのが私だと悟り、走り寄ってきて、そのままプールへ飛び込んだ。


「カレン」


 プールから引き上げられた時、私の意識はなく、ぐったりとしていた。ジャンはためらうことなく、くちづけで人工呼吸を施し、呼吸を取り戻させようとする。


「カレン、しっかりするんだ。カレン、息をするんだ!」


 ジャンは人を寄せ付けない殺気を装いながら、懸命にカレンにくちづけしては、胸に手を当て肺を押し付ける。


「ふぅーっ」


 飲み込んだ水を吐きだし、呼吸が回復したのは、ジャンの人口呼吸のおかげだった。まどろんでいる記憶の中で、ジャンがしっかりと私を抱きかかえ、助けてくれたことだけは、理解できた。


「カレン。もう大丈夫だ! 」


ジャンは、カレンを抱きかかえ、そのままパーティ会場を後にした。



◇ ◆ ◇


From:アリー

【アンソニー、この写真を見て! カレンとジャンが抱き合ってくちづけしてたわ。カレンは、アンソニーが思ってるようなじゃないのよ。カレンに騙されないで!】


 アリーが、アンソニーに送ったメールには、ジャンがカレンを抱きかかえ、くちづけをしているように見える写真が添えられていた。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る