第23話 ジャン=クラウド編⑥ プリティウーマン!?


 ジャンさんは、世間の噂など何も気にしていない様子で、今朝も一緒にランニングを終わらせた。午後からのトレーニングはお休みで、夜はマリブ地区に住む映画監督の誕生パーティに顔を出す予定だと聞いている。


「カレン、今夜はたくさんの映画関係者が集まるから君に紹介してあげるよ」


 ジャンさんは、そう言ってくれたが、私は何を着ていけば良いのかわからずに悩んでいた。


「ジャンさん……。こんな質問をしたら笑われるかもしれませんが、今夜はフォーマルなパーティですか? カジュアルなパーティですか? どのような服装をすれば、場違いにならずにすむかを教えていただけませんか? 前回、 アンソニーのスタイリストに洋服のセンスが悪いと指摘され、慌てて購入したことがありました。一緒に連れて行って頂くジャンさんにご迷惑をおかけしたくないので、恥を忍んでお聞きします」


 デビットに笑われた経験から、一緒に連れて行ってくれるジャンさんにまで迷惑はかけられない。ここは、素直にジャンさんに尋ねてみる。



「そういう理由だったんだね、カレン。それじゃ、これからショッピングに行こう!!」


「えっ?」


「僕に恥をかかせたくないんだろう。だったら、僕が君のドレスを選んであげるよ」


 ジャンさんは、コンシェルジュにカレンに似合うドレスをどこで購入すればよいかを尋ねる。コンシェルジュは、ビバリーヒルズに位置するロデオ・ドライブあたりがよいと勧めている。


「女性の洋服を買いに行くのは、僕も初めてだからね」


ちょっと照れながら、日焼けした顔から真っ白な歯がこぼれている。


 ビバリーヒルズには、Saks Fifth Avenue などの高級百貨店や、シャネルやディオール・ティファニーなどの一流ブティクがのきつらねて並んでいる。

 

 二人でショーウィンドウを眺めていると、ある一軒のブティクに素敵なサマードレスが飾られているのを見つけた。


「わぁ、素敵なドレス」


「カレン、このお店に入ろう」


 ドレスは、紺色をベースカラーにした、膝丈のドレスで小さなお花がたくさん散りばめられているAラインのものだった。胸元にはフリルがついており、ちょっぴりセクシーさもあるデザインでサイズもぴったり。


「すごく似合ってる。このドレスを着た君を今夜エスコートするよ」


 トレーニングを毎日、一生懸命に頑張っているご褒美にとジャンさんが私にプレゼントしてくれるという。


「あのっ……、仕事で取材をさせて頂いてるうえに、ジムやトレーニングのコーチをしてくれているジャンさんにお礼をしなければならないのは、私です……」


「カレン、君のそういう謙虚で素直なところが可愛いくて好きだよ。美しいだけの毒々しい女が多いこの世界にいると、すずらんのように可憐で小さな君がとても新鮮に感じるよ。ずっとそばに置いて、守りたくなる」



 さらっと言い放ったジャンさんの言葉に驚き、その場で固まってしまう。ジャンさんは、私の様子など気にすることなく、ドレスの支払いを進めている。


 英語の聞き間違いじゃないよね。ジャンさんの言ったことはなんだったんだろう。いやいや……、今のはきっと空耳だ。世界の大スターのリップサービスに違いない。こんな言葉で浮かれていては、記者として失格だ。ドレスをプレゼントしてもらったからって、浮かれてちゃダメだ。


「ジャンさん。ドレスをありがとうございます。今夜はジャンさんにご迷惑かけないように、取材させていただきますね」


「カレン。堅苦しく"ジャンさん"なんて呼ばないでくれ。ジャンでいいよ。今夜は、プライベートパーティだから許可された最初の部分しか写真撮影はできない。ケーキを囲んでの写真とか、酔いがまわる前の写真だけ。だから、そのあとは仕事と思わずに楽しんでくれると嬉しいな」


「わかりました……ジャン」


「それでいい」


 うひょっ。パーティなら久々にお酒が飲めるかも……。一週間以上禁酒してたから、美味しいキーンと冷えたビールが飲みたい!! ビールがなければシャンパンでもいいや。


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