第22話 ジャン=クラウド編⑤ セクシーポーズ!?

 ジャンさんを取材して一週間が過ぎ、トレーニングにもジャンさんとの生活にも少し慣れて来た頃に事件は起こった。


「ジャンさん、お願いがあります。ベニスビーチのマッスルビーチでジャンさんの写真を撮らせて欲しいのですが、可能でしょうか?」


編集長からの要望を恐る恐る……お願いしてみた。


「カレン、僕のお願いも聞いてくれるなら、君のお願いを聞いてもいいよ」


 うむっ。お願いの交換か……。

ジャンさんが、真面目な性格だということはこの一週間でよくわかっている。


「わかりました。夕陽の中でジャンさんのセクシー写真を撮影したいと思いますのでよろしくお願いします」


「了解。じゃ、明日の夕方に撮影しに行こう」


「ありがとうございます。それではおやすみなさい」


 ジャンさんから了解を得られ、ほっとした気持ちで就寝する。




◇ ◆ ◇



 カレンが、スヤスヤと眠りについた頃、リビングにはまだ明かりが灯っていた。ジャンは、コンシェルジュから受け取ったアメリカゴシップ雑誌売り上げNO1週刊誌、" My Star "の記事をにらみつけるように読んでいる。


 ゴシップ雑誌・" My Star "には、アンソニーとカレンが、サンフランシスコにあるPetitサイズ専門セレクトショップで仲良く買い物を楽しむ写真とゴールデンゲートブリッジが見える海岸、ベイカービーチで抱き合いながら、くちづけをしている写真が載っていた。


  Petitサイズ専門セレクトショップオーナー・リンダによると、アンソニーがカレンのために、たくさんの洋服を購入したと証言している。アンソニーは、日本から来たこの娘にゾッコンだったとも……。


 アンソニーが、カレンを好きなことぐらい、あのチャリティオークションの時に気がついていた。あの女嫌いのアンソニーが好いている娘だから、カレンに興味を持ったんだ……今更、二人がくちづけをしている写真ごときで狼狽うろたえてどうするんだ……。


 目の前にある、週刊誌の中で二人が見つめ合っている写真をみると、理性とは裏腹に心がざわめいてイライラする。


 トレーニングも一生懸命に行い、愚痴ひとつ言わずに頑張っているカレン。今まで付き合った女達は、トレーニングの厳しさと食事制限にネを上げて離れていった。カレンが来てからは、毎日が楽しくあっという間に一週間が過ぎてしまった……。


 


◇ ◆ ◇


 夕方のマッスルビーチは、潮風が心地よく、風がいたずらするようにスカートの裾を揺らしている。マッスルビーチは、ロサンゼルスにあるベニスビーチ一角の野外トレーニング場の名称で、ここでは、たくさんのボディビルター達が、自慢の筋肉を見せながらトレーニングをしている。マッスルビーチでのトレーニング経験者から多くのハリウッドアクションスターを生み出していることで、スターを夢見る若者たちのお披露目の場ともなっている。


「カレン、裸の方が筋肉がきれいに見えるので、服を脱ぐよ」


 よかった。私から、服を脱いで下さいなんて……言いづらいもんな。

さすがは、ハリウッドスターだな。ポーズもお願いする前に決めてくれて、私は、ひたすらカメラのシャッターを押せばよいだけだ。


 夕陽をまとったジャンさんをうまく撮影しなきゃ。日焼けした体にローションが塗られ、厚い胸板がキラキラと輝いている。にっこり微笑むジャンさんは、女性が選ぶセクシーな男NO1に輝いたスターのオーラを背負っていた。トレーニングの厳しさを知っている私は、ジョンさんに、尊敬の眼差しを送った。


 夕陽が足早に去り、あたりが薄暗くなるまで夢中で撮影していた。ハリウッドスター・ジャン=クラウドに気づいた観光客が、マッスルビーチを覗き込んでいる。


「ジャンさん、ありがとうございました。素敵な写真をたくさん撮影することが出来ました」


「カレン、観光客が気づいてしまったようだ。待たせてある車まで、走って逃げるけど、大丈夫かい?」


「はい。毎朝、ジャンさんと走って鍛えてますから、大丈夫だと思います」


「じゃ、走るよカレン」

 

 ウインクし、微笑んだジャンさんが、私の左手をさっと取り、手繋ぎの状態で走り出した。


「あのっ……」


 繋いだ手を解くこともできず、一目散に走り出す。ジャンさんは、笑いながら走っているように見えるが、私はジャンさんに迷惑を掛けないようにと必死の形相だ。


 その様子を観光客たちは呆気にとられてみている。


 ジャンさんと手を繋ぎ、走り去る二人は、観光客のカメラや携帯の標的となり、逃げ去る様子もしっかりと撮影されてしまった。SNSのコミニティーにその写真やビデオが掲載されたのは、走り去ってすぐのことだった。


 車に乗り込み、ビーチを後にした二人は、その反響の大きさがどれほどのものかをまだ知らずにいた。



 車に乗り込んだ私は、編集長に撮影報告のメールを入れた。


From:カレン

【編集長、ジャンさんのマッスルビーチ撮影は、大変でしたが成功しました!✨】


From:康代

【カレン、ご苦労様。あなたは、我が社の星よ!⭐️ あなたのおかげで*Fabulous ・ファビュラス*は、日本国内だけじゃなく、世界中から注目されているわ】


From:カレン

【編集長……あのっ、言ってる意味がわかりませんが……😓】


From:康代

【あなた、アメリカゴシップ雑誌売り上げNO1" My Star "に載ったのよ。アンソニーとラブラブな写真が世界中に配信されちゃったのよ。そのうえ、ジャンとのマッスルビーチ撮影で、手を繋いで仲良さそうに走ったでしょう。その様子まで、ビデオや写真が出回っちゃって*Fabulous ・ファビュラス*にも早々に問い合わせが来てるわよ】


From:カレン

【うそーーーー!! 寝耳ねみみに水なんですが……。そんなぁ〜……もう〜これから、どうなっちゃうんでしょうか……】


From:康代

【週刊誌記事を読んだ感じだと、Petitサイズ専門セレクトショップオーナー・リンダが自分の店の宣伝のために、二人が店に来ることを週刊誌に売ったってところかしらね。お店の宣伝にはうってつけよね】


 信じられない!! ショックで寝込んでしまいそうになる!!



 リンダが最後に言い放ったきつい言葉尻がずっと気になっていた。思い出すと悔しさが滲んでくる。週刊誌の記者が海岸まで尾行して来ていたなんて、信じられない。


 どうしょう。頭をフルに回転させても解決策など何も出てこなかった。

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