第12話 アンソニー編⑦酒乱でハプニング!!

「うぃっぷ……。」


 慣れない取材で、ガチガチに緊張していた心が、ワインで解き放たれた瞬間だった。


「ちょっと、カレン。あなた、ちゃんと立てていないわよ」


 駆け寄ってきたデビットが肩を抱きかかえ、心配顔で私を覗き込む。


「うぃっぷ……心配には及びません。私……酔ってなんかいませんから。大丈夫ですよ〜」


 特等席テーブルの上に並べられていた見本用のオークションワインボトル5本、すべてが空になっている。


「あなた、このワイン全部ひとりで飲んだの?」


「いやいや……そんなに飲むわけないじゃないですか……全部ではないです。5本ともコルクが空いてましたから……あまりものでしょう。だから……私が飲んだのは……ほんの数杯だと思います。……うぃっぷ」


「あなた、ばかね。全部飲んじゃうなんて……」


 そんなやりとりをしていると、招待客の見送りを終えたアンソニーがものすごい形相で小走こばしりしながら戻ってきた。アンソニーのいた場所からは、デビットがカレンを抱きしめてキスをしているようにみえたのだ。


「デビット。カレンに何をしている」


 まるで刑事が犯人に話すような厳しい口調で問いかける。


「何よ、いきなり怒鳴ったりして!アンソニーらしくもない。何もしてないわよ。この子が酔ってるから体を支えてるだけよ」


 なぜ、アンソニーが怒っているのか、酔った頭で深く考えられるはずもない。だけど、思考が回らない状態ではあっても、恋人を頭ごなしに怒るなんてひどい人だということだけはわかる。



「アンソニーさん。デビットって……ちょっとだけ意地悪なところもありますけど、本当はやさしい人だと思います。それなのに頭ごなしに怒るなんてひどいと思います。あなたの恋人じゃないですか……うぃっぷ……余計なことかもしれませんが、もっと優しくしてあげてください。……あっ、それと……アリーさんとの二股もやめたほうがいいですよ……」


 酒の力もあり、思っていたことが口から「ぽろっ」と出てしまう。そんなに飲んだつもりはないのに……もう、酔っちゃってるみたいだ。


ふぅーっ……。


 深いため息をついて、言いたいことを言い終えると、デビットに支えられていた体がまるで電池の切れた人形のようにスーッと力が抜けて、立っていることすら出来なくなる。



「……カレン」


……記憶に残っているのは、この時までの会話だった。


 アンソニーはとっさにカレンの体をデビットから奪うように抱き直し、崩れ落ちる体を受け止めた。半分眠りについたようなうつろな目をしたカレンの顔をじっと見つめる。口をモゴモゴと動かして続きを話そうとしているが、よく聞き取れない。カレンはやっぱり酒乱なのか・・・?!


ぷっ……。ハハハハ……。


 顔を見合わせたアンソニーとデビットの笑い声がこだまする。


「あら……この子、私とアンソニーが恋人同士だと思っていたのね。小憎こにくたらしい事をいけしゃあしゃあと言うけど、心配してくれてたなんて、案外いいところもある子なのね」


「まったく、手のかかる困った人だ」


「アンソニー。あなたがこの子を気にする訳がわかったわ。冷静なあなたをこんなに怒らせたり笑わせたりするなんてね。こんなタイプの子は、ここらじゃいないわね。まっ……憎たらしいけど、アリーに奪われるくらいなら、この子を応援するしかないわね」



 アンソニーに抱かれ眠りについた私は、二度めの醜態を見せてしまった。



From:カレン

【編集長・・・すみません。またやっちゃいました。しばらくお酒は飲まないようにします😭PS・・オークションの写真はバッチリですのでご心配なく】




 会場から別荘に運ばれた私は、メイドのマリアの手を借りて眠りについた。


 部屋のテーブルにはメモが残されている。アンソニーからの伝言だ。


 “明日は仕事の打ち合わせでサンフランシスコの街まで行きます。

取材OKですので、ぜひ一緒に来てください。そのあと、トラベル記事を書くのにサンフランシスコの観光地を一緒に回りましょう”

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