第11話 アンソニー編⑥ マッチョなイケメン?!

「いい加減にしてくれ!」


 怒りで肩を震わせ、からむ二人の腕を勢いよく振りほどく。


 こんな風に怒ったことなど、一度もなかった。呆気にとられポカーンとした顔で立ち尽くすデビットとアリー。


 アンソニーは二人を気にもせず、スタスタと中庭へ歩き出す。




◇ ◆ ◇


 中庭には、ジャン=クラウドがワイングラスを片手に佇んでいる。


 映画俳優のジャンは、ベルギー出身。クラシック好きな親のすすめで、子供の頃からバレエを習っていた。プロのバレエ団からの誘いもあったがそれを断り、映画の世界へと飛び込む。短く刈り込んだ髪に琥珀色の肌。空手と格闘技そして、ボディビルで鍛えられた引き締まった体が彼の魅力だ。今やハリウッドでは、押しも押されもせぬスーパースター。



 ジャンが騒音を避け、中庭で一人静かにワインを飲んでいた所へ小柄な娘がため息をつきながら歩いて来た。




「外は静かで気持ち良いですよ。ワインでもお持ちしましょうか?」


 抜き足・差し足で忍者のごとく、アンソニーの奪い合い現場からそっと抜け出た私が、ふぅーーーっ💦と深いため息をついた時、ジャンが話しかけて来た。



「あっ……くつろいでいた所を、お邪魔してごめんなさい」


 顔を見ると、日本でも有名なハリウッド俳優のジャンだ。


うわっ。


答えた後に気がついた💦


 な・・なんなんだ。スーパーモデルのアリーとかハリウッドスターのジャンとか・・世界が違いすぎる。


 こんな状況とはいえ……怖気付いている場合じゃないよな。私は仕事で来てるんだ。がんばって取材しなきゃ。


「日本から来たカレンと言います。あの、ジャンさんですよね。ワインがお好きなんですか?」


「アンソニーの造るワインはとても美味しいからね。毎年このチャリティに参加して購入してるんだ」


「そうだったんですね。写真を撮らせて頂いてもよろしいですか?」


「もちろん。いいとも……カレン」


キラーン✨ !!


 ジャンさんのスマイルに白い歯が輝いている。芸能人は歯が命〜🎶って聞いたことがあったけど、ピッカピカだ。



 カメラのシャッターを切りながら、彼が呼んだ自分の名前……カレンがなんども……なんども……脳内でこだまする。ダメだ〜、刺激が強すぎる!!


ううっー💦


 スーパースターに笑顔で名前を呼んでもらえるなんて……。取材で来てるのは百も承知だけど……こんなラッキーなシュチュエーション……私の人生で初めてだ。




「カレン……ここにいたのか……」


 脳内お花畑の真っ最中に走ってこちらへやって来たのは、アンソニーさんだった。


「えっ?! アンソニーさん???」


「カレン。アンソニーと呼んでくれ。あの二人にはびっくりしただろう。悪かった」


 アンソニーの突然の登場に驚きを隠せない私。

「あのっ。私を心配して来てくれたんですか?」


「当たり前だろう」


「アンソニー、久しぶりだな。カレンは君の知り合いなの?」


「ジャン。今年も来てくれて嬉しいよ。カレンは日本から取材で来ていて、3週間一緒に過ごすことになっている」


「へぇー、そうなんだ。アンソニーを取材するためにここへ来たのか……。取材嫌いのアンソニーが長期取材を受け入れたとはな。……ねぇ、カレン。アンソニーの取材が終わったら俺の取材をしないかい。俺も君の取材なら受けてもいいよ」


 うひょっ……棚からぼたもち……渡りに船とはこのことなのか……。

「はい、これ私の名刺です。取材させて頂けるなら嬉しいです」


 持っていた名刺を両手で渡す。アンソニーはその様子を見ながら、ジャンを横目でにらみつける。


「カレン。もう直ぐチャリティーが始まる。オークションの写真を撮りたいんだろう。さぁ、中へ入ろう」


「わかりました。あっ……ジャンさん、写真を撮らせて頂き、ありがとうございました」


 ジャンさんに挨拶をして、アンソニーのエスコートで中庭を後にする。



 会場では、司会者がオークション用のベルを鳴らしていた。アンソニーは、司会者の横に用意された主催者特別席に私を連れ、席に着くと、写真を撮るにはここがベストな場所だと教えてくれる。会場が見渡せるその席は、一段高くなっていた。


 おおっー。いい場所ゲット!!


 ザワザワと賑わう会場の中、記者魂が心の中で叫んでいた。この日、この特等席で撮影を許されたメディアは私だけだった。




「すごく良い写真が撮れました。アンソニーさん、ありがとうございました」


 オークションも無事に終わり、パーティは大詰めを迎えていた。


「カレン。今回のオークションでワインを購入してくれた人たちに挨拶して来るから、君はここで待っていて」


 アンソニーは特等席に私を残したまま、最後の挨拶に行ってしまった。

これだけの人混みだから、心配してくれたのかな……。みんな、でかくて大きいもんな。会場は、ほろ酔い気分の人たちが出口へと向かう波となっていた。


 取材もひと段落したし……待っている間、私もワインの味見をさせてもらおっと……。テーブルに置かれたワイングラスへ手を伸ばす。


「うぅーん。いい香り。この濃厚さがたまらない」


 やっぱりアンソニーさんの造ったワインは美味しいな。グラスを揺すり、匂いを確かめ最初の一口を味わっていた時だった。




「ちょっと……。そこのちんちくりん女!! 聞こえてるの💢あんたのこと呼んでるのよ、カレン」


 振り向くと、後ろから近づいて来たアリーが仁王立におうだちしていた。


「あなた、アンソニーのなんなの? アンソニーは取材を受けるのが大嫌いなのに、なぜあなたに許可したのか説明しなさいよ」


いきなりの登場で驚いたが、心は冷静だった。


「うちの社の田中信二がアンソニーさんと知り合いで取材を受けて頂きました」


「ちょっと……あんた。記者の分際で、ずいぶん生意気ね。覚えておいて、アンソニーはあんたなんか絶対に相手にしないんだから」


「あの……おっしゃってる意味がわかりませんが……」


 アンソニーさんはデビットの恋人。この人、二人が付き合ってるの知らないのかな。もしかして、アンソニーさんてすごいプレイボーイでこの人とも付き合ってるとか……?


「忠告よ。アンソニーには近づかないで」


勝手に宣戦布告されて、足早に退散して行った。




もう……何が何だか、よくわかんないや!!


 テーブルの上に置いてあったワインボトルが目に入る。

手にしたグラスに、なみなみとワインを注ぎ、モヤモヤした気持ちを押し沈めるように一気に飲み干す。



From:カレン

【編集長〜!!・・スーパーモデルのアリーは、ものすご〜く嫌な女で、雑誌などでは微笑んだ写真しか見たことありませんでしたが、実は性悪ビッチ女です!! 😓】


康代への業務報告メールに今日の出来事を書いて送信した。

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