第10話 アンソニー編⑤ 妖艷ビッチ女!
「あらまぁ〜、あなたのサイズを選んだのに、こんなに胸がガバカバしてるわ」
ううっ〜。そこを突っ込んで来るか……。
デビットさんが用意してくれた紺色のイブニングドレスを試着した。胸の部分がスカスカで、丈が長すぎる。胸なし
それにしてもこんなドレスは、七五三の時に写真スタジオで写してもらった時以来だ。
あの時は、「カレンちゃん、世界一可愛いわよ」ってお母さんに言われたのに……。クスン。
「胸と丈を詰めるしかないわね。それと、あなたのお化粧も全然ダメよ。ドレスに負けちゃうじゃない。アジア人の顔はのっぺりした
ダメダメのダメだしだ。💦
「デビットさん。お手数をおかけして……すみません」
言葉はちょっときついけど、デビットさんって意外に優しい人だな。
お化粧までしてくれるなんて……。
「カレン。デビットさんなんて恐縮した呼び方しないで、デビットでいいわよ。あなたのコーディネイトはアンソニーに頼まれたから仕方なくやってるだけで、別にあなたのためじゃないんだから……さっさと支度して会場に移動するわよ」
ううっ……。やっぱりきつい人だ。
デビットに化粧をしてもらい、急いで手直しされたドレスを着て、二人でオークション会場へ移動する。
アンソニーは、すでに会場入りしており、大勢の人達が集まっていた。会場の華やかさに圧倒されながらも、私は手にしたカメラで撮影を始める。
「アンソニー。連れて来たわよ」
会場で女性達に囲まれているアンソニーさんに向かってデビットが大声で叫ぶ。会場の人達や女性達も一斉にこちらを振り向く。
「カレン。さぁ、アンソニーの所へ行くわよ」
足早に走り出すデビットの後に付いて、長いドレスの裾を抱え、慣れないヒールに戸惑いながらヨレヨレとしながらも必死に追いつこうと小走りする。
ぷっ、フフフッ。
女性達が笑っているのが見えるが、必死な私はそんなことを気にする余裕すらない。
デビットはアンソニーに近づくと、大きく手を広げ、ビッグハグとキス💋をする。
「アンソニー、私の腕ってすごいでしょう。あんなにひどかったのに、今夜のカレンは馬子にも衣装で別人よ」
なんとかここまでたどり着いた私が耳にした言葉だった。ううっ……いきなりみんなの前でそれを言うなんて。デビットって、やっぱり意地悪だ。
アンソニーは、じっと私を見て、にっこりと微笑む。
「カレン。とても綺麗だよ」
エーーーーッ。それはもっと反則だ。
「あら、何なのこの子」
私の方が何倍も綺麗なのに……。アンソニーが、このアジアのちんちくりんに微笑むなんて。
アンソニーの横にピタッと寄り添っていたのは、胸の谷間が強調され、布の面積が異様に少ない、ほぼ裸のようなドレスをまとった背の高いスタイル抜群の女だった。
「ひさしぶりねぇ〜、アリー。相変わらずスタイルだけはいいわねぇ〜。そのドレス似合ってるわよ。貴方にしか着こなせない大胆なデザインね。ところで、パリコレからはいつ戻ったの」
デビットの声でハッと我に返える。
この人、なんとなく見たことあると思ったけど、モデルのアリーだ。
パリコレだけじゃなく、♩ビクトリ・アンアン・シークレット♩のモデルもしてる人で……たしか、先月のビクトリ・アンアン・シークレットのショーの時、最後に大きな翼のような羽を付けてお尻フリフリ歩いてた人だ。
やっぱり、雑誌の通り、近くで見るとすごい綺麗でスタイルいいな。
そう思ったと同時に、記者として無意識に声が出ていた。
「あの……。写真撮ってもいいですか」
「なんだ。あなた記者なの。クールなアンソニーがあなたに微笑んだから変な心配しちゃったじゃない。あなたみたいな、ちんちくりんをアンソニーが気に入るはずないのにね。ふふふっ。アンソニーと一緒に撮るならいいわよ」
アンソニーに腕を
その横で無表情で突っ立っているアンソニーさんは、私の知っているアンソニーさんとは別人の顔をしている。
写真を撮り終えると、デビットがアンソニーの腕を
「ちょっと、アリー。私のアンソニーにいつまでもくっついてないで、いい加減離れてよ。アンソニー、あっちに行きましょう。チャリティーオークションがもう直ぐ始まるわ。その前にワインの味見をさせて頂戴💕」
「キーッ!! 何言ってるの。デビットこそアンソニーから離れなさいよ💢」
アンソニーさんを巡ってバトルしている二人の様子は、バチバチと火花が燃えるような凄まじさだ。
こんな激しいバトルは、見ぬが仏・聞かぬが花だよな。小さな体の身をさらに縮めて、そっと抜き足で忍者のようにその場を離れ中庭へ逃げ込む。
ふぅー。セレブの世界はなんか激しくて疲れるなー。深いため息をついて深呼吸する。
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