第9話 アンソニー編⑤ レディーキラー?!

「おかわりをお願いしま〜す!!」


ぺこぺこなお腹にフレンチトーストと新鮮なフルーツが吸い込まれていく。


「うーん。おいしい」


 デビットは、目をパチクリさせてカレンの食べっぷりを眺めている。

添乗員だった癖で、食事は摂れる時に急いで食べる癖がついていた。

パクパクと美味しく食べていると……


「ちょっとぉ〜、カレン。あなたって大食いなの? すごい食欲ね」


 いつもの癖で、モリモリ食べていた。

それにしても……三度目のおかわりはやっぱり驚かれるよな。


「ハハハ……デビットの事は、気にせずに好きなだけ召し上がっていいですよ」


 ちらっと横目で見ると、声を出して笑っているアンソニーさんが、笑いをこらえながら優しく声をかけてくれる。


 よかった。冷酷なひとじゃなくて。笑わないどころか……笑い上戸じょうごだよなアンソニーさん。


 お言葉に甘えて……食べさせて頂きます!!




「カレンさん、食事の後にうちのワイナリーを案内しましょう。明日は、新作ワインの発表パーティがあるのでその前に知っておいた方が良いでしょう。うちのワインは、市場しじょうには出していません。全てチャリティ用で、その売り上げは恵まれない子供達を支援する団体に寄付しています。明日は、年に一度、ここで主催するチャリティパーティの日です。たくさんの人とメディアが集まる日なのです」



 アンソニーの説明を聞いて、世界の違いを感じる。お金持ちのチャリティパーティ取材は、初めてだけど、『Fabulous ・ファビュラス』に載せるにはぴったりな話題だな。


 よぉーし、頑張るぞ!!




「デビット、明日のコーディネイトの件だが、彼女の分もお願いしたい。なんとか間に合わせてくれないか?」


「あらっ、アンソニー。この子をパーティに連れて行く気なの。この子は記者なんだからこのままでいいじゃない。でも……そうねぇ〜……この子の服のセンスじゃ、いくら取材といってもひどすぎるわよね」



 デビットは食事を終えると私の服のサイズを確認し、サンフランシスコへと戻って行った。





 別荘に隣接する葡萄畑ぶどうばたけの中をアンソニーさんが案内してくれる。丁寧な説明をメモ帳に書きながら写真に収める。


 美味しいワインを造るには、葡萄の土壌作りが最も大切だという事。

一つの枝から実る葡萄は、一房だけ残し、あとはすべて刈り取るという贅沢な剪定せんていを得て、濃厚で贅沢なワインを作り出す事。


 説明しているアンソニーさんは生き生きとしている。

カメラのレンズ越しに見るとまるで映画スターみたいに輝いて見える。

ワイン作りが好きなんだな。



 それに……。


 ふむふむ……これだけのこだわりでワインを作っているのか……どうりで美味しいはずだ。


 メモを取りながら歩いていると……


 アンソニーさんが葡萄の一粒をもぎ取り『どうぞ』といって差し出してくれる。葡萄の粒はとても大きく綺麗なビー玉のようにツヤツヤと輝いている。


「食べてもいいんですか?」


「ワイン用の葡萄は渋いですが、うちのは甘みもあるんですよ」


 さぁ、といって爽やかな笑顔で私の口の中に葡萄を運んでくれる。


 うわっ……アーン。

 

 口をひなのようにぽわ〜んと開けてアンソニーさんの顔を見る。

陽の中に透けるような金髪が輝いて、綺麗な青い瞳が私に向かって微笑んでいる。


 アンソニーさんのキラキラした眩しい笑顔でこんなことされたら……


 女性なら……いや、男性でもと言った方が正しいかもしれない。

誰もがキュンと胸が締め付けられ、心臓の鼓動が勝手にドクン・ドクンと早打ちしてしまうだろう。


 わっ……いけない、いけない。


 彼の恋人はデビットさんで私は取材で来てるんだ。

私には使命がある。絶対にときめいたり、恋なんて禁止だ。



 それにしても、アンソニーさんの笑顔、最強すぎる。

 ものすごい……破壊力。


「どうですか? 渋さのなかにも、甘みを感じるでしょう?」


「……はい。本当に……渋さのなかに、甘みを感じます」


 口に入れた葡萄は、まるでアンソニーさんそのものだよ。ちょっぴり頬を染めている自分にツッコミを入れた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る