第8話 アンソニー編④ まさかのあっち系?!

 ドドドドーッ。

 廊下を一目散に駆けだしリビングを目指す。


 リビングではメイドのマリアが、清掃の真っ最中だった。陽気な南米系のマリアは、鼻歌に合わせてお尻をフリフリしながら清掃作業をしている。


「あの……すみません。アンソニーさんが今、どこにいるかわかりますか?」


 振り向いたマリアは、少し驚いた顔をしたが、すぐに笑顔を見せ、両手を広げ走り寄って来て大きなハグをする。


「ようこそ! あなたが噂のカレンね。私はマリアよ。ここで働いてるの。よろしくね」


「あっ……日本から取材に来たカレンです。よろしくお願いします」


 大きくて力強いマリアの暖かい歓迎ハグに解放されると、彼女が早口で話し出す。


「私には、夫と子供が二人いて、この別荘の敷地内に住んでるのよ。夫のジョセフもアンソニーに雇われてて、庭師の仕事をしているわ。アンソニーがここの別荘に滞在していない時は、管理人としてこの別荘を守ってるのよ」


「そうなんですね」

いつもの癖で、手に持つ小さなノートに彼女の情報を書き込む。



「私の事なんかメモしなくてもいいわよ。あっ……カレン。アンソニーはダイニングルームで食事をしているわ。あなたもお腹空いてるでしょ。一緒に朝食を摂るといいわ」


= グゥ〜……=


 返事をするようにお腹の虫が大きく叫ぶ。


 昨日きのうの晩は、柿の種が夕食になっちゃったから、お腹すいちゃった。それにしても、なんでこんな大きな音がでるかな〜。もう、恥ずかしすぎる。



 ワハハ……ハハッ……。

「カレン。あなた面白い子ね。私は、あなたのになるわ」


「はぁ・・ありがとうございます。じゃ、マリアさん・・私は朝食を頂きに行きますね」


 マリアと別れ、ダイニングに向かう。


 ふぅ〜……緊張して来たな。


 私の醜態しゅうたいあきれてるだろうな。もうすでに噂になってるみたいだし……。


 アンソニーさんの事を取材対象者としてネットや雑誌で色々調べたら、お金持ちでハンサム。だけど、冷たそうな表情は人を寄せ付けない雰囲気を漂わせていて、笑った写真など一つも見つけられなかった。超……怖い人だったらどうしょう。


 いやいや……どっちにしてもまずは謝らないと。社会人としてあるまじき事をしでかしたのだから……。



「おはようございます」

 元気にダイニングに入っていく。


「日本から来た、カレンと言います。昨日は醜態しゅうたいを見せてしまい申し訳ありませんでした。これは、私の故郷、北海道で一番人気のスイーツです。お口に合うかどうかわかりませんが、どうぞ召し上がってください。今日から3週間、取材であちこち同行させて頂きますのでよろしくお願いします」


 最敬礼のお辞儀をして、頭をさげながらお土産を差し出す。



「あ〜ら、あなたが日本から来た子ね。ここへ来た時には泥酔してたっていう子よね。私はデビット。彼のスタイリストよん。よろしくねぇ〜。私達、時々朝食を食べながら、打ち合わせするのよん」


「カレンです。よろしくお願いします」


うわっ。デビットさんとアンソニーさんて……?!


えっ……朝食を一緒にって!!


……この二人は恋人同士なんだ !?



 アンソニーさんて、あっち系の人だったんだ。だから、女嫌いだったのか……。でも、このことを記事にするのはまずいよな。頭の中でぐるぐると考えを巡らせていると……


「ちょっと……あなた!! そこに真っ直ぐに立ってみて……まっ……服のセンス最悪ね。ひどいわよ」


オネエ言葉のデビットが、容赦なく攻撃して来る。



 この紺色の服は、リクルートスーツだけど、添乗員をしていた私の服の中では一番のお気に入り。


 購入は、♩洋服の青山田♬


 日本ではテレビの宣伝までしてる大手なんだけどな。そんなにひどいかな……思わず自分のスーツを見回してみる。




ぷっ……クックックッ……。


 アンソニーは、カレンの緊張してガチガチな挨拶とデビットとのやりとりを聞いて、声を出して笑っている。



「あの……そんなに笑わなくても……」


「そうでした。さぁ、こちらへどうぞ。一緒に朝食を食べましょう」



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