第7話 アンソニー編③ イケメン金髪

 アンソニーは、ワインを飲みながら窓の外の葡萄畑ぶとうばたけを眺めていた。


 兄のように慕っている田中信二の頼みを受けて、取材の申し込みをOKしたものの、メディアには今まで散々嫌な思いをしている。嘘の記事を書かれ、人格まで否定されたこともあった。今回はそんなことがなければよいが……。




 信二の恋人であり、編集長である康代からのメールでは、加恋カレンという名の記者が日本から来るという。


 すでにサンフランシスコ空港に到着しているが、渋滞に巻き込まれているのだろう。予定の時間を大幅に過ぎている。





==== バタン===


ようやく到着したようだな。


 リビングに走るように入ってきたのは、カレンではなく運転手のダンだった。


「ワインの飲み過ぎでカレンさんが泥酔してます。ぐっすり眠ってまして、起こしたら・・うるさい! と怒鳴られました。どういたしましょうか?」



 ワイングラスを一旦テーブルに置き、玄関に横付けされているリムジンまで足を運ぶ。


 リムジンの中をのぞき込むと、椅子にもたれるように横になり、ぐっすり眠っているカレンがいる。口を開けてスースーと眠っている姿は、あまりにも滑稽こっけいで思わず吹き出してしまう。


「俺がこの子を部屋まで運ぶから、スーツケースを部屋まで運んでくれ」


 ダンに指示を出し、アンソニーは寝込んでいるカレンを抱きかかえ玄関を抜け、長い廊下を歩き出す。



 しばらく歩くと、抱かれているカレンは、寝心地の悪さからか、急に眠りから覚め、寝ぼけたように話し出す。


「ふぅ〜ん。あんた誰?! これを夢っていうのか。それにしても、お目々も紺碧あおくて、鼻も高いね。……まるでダビデの彫刻みたいだなぁ〜。うわっ……まつ毛もこんなに長くて……髪も金髪だぁ〜」



 カレンが薄目を開けて、プランプランとさせていた手で目の前に迫るアンソニーの顔を物珍しそうに触り出す。ついでのように、金髪の髪さえもきむしろうとする。


「まったく……困った人ですね」


 アンソニーの言葉など聞こえる様子もなく、部屋のベッドにそっと体を下ろすと、すぐに大の字になり何事もなかったかのようにスヤスヤと寝入ってしまう。



 その姿を見ていると、拍子抜けさせられた思いもあり、思わず笑いが込み上げる。



初日に飲みすぎて……酒乱とは……。


 ぷっ、クックックツ・・・・。


なんて人なんだ。予測に反するこの展開。こんなひとは初めてだ。




「このまま、寝かせておこう」




部屋を出たアンソニーは、リビングに戻り信二と康代にメールをする。


From:アンソニー

【日本から送られてきた彼女は、リムジンの中で泥酔。そのまま部屋へ運びました。今はスヤスヤと寝ています。とりあえず、彼女が到着した事をお知らせします】



 アンソニーから送られてきたメールを見た信二と康代はニヤニヤしながら、アンソニーにすぐに返信。


From:康代

【アンソニーが今まで出会ったことのないタイプの女性です。なぜなら、彼女はあなたに下心がないからです】




 アンソニーは、酔って大の字に寝ているカレンの姿を思い出し、こびを売らない女がいるということに驚きを感じていた。



 これから3週間、楽しく過ごせるかもしれない。

明日からのことを考えるとちょっとワクワクした気持ちになっていた。

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