第5話 世界の男図鑑・アンソニー編①

 サンフランシスコ空港に降り立った私を待っていたのは「Miss Karen」と書かれた紙を持ったダンという大柄な白人男だった。


 ダンは、アンソニーの専属運転手の一人で私を見つけると丁寧に挨拶した後、荷物を車へ運んでくれる。


外には真っ黒なリムジンが待っていた。


「ここから、ナパの別荘まで、道が渋滞していなければ一時間ちょっと。混んでいたら3時間以上かかることもあるのでゆっくりとくつろいでください」


 リムジンの後部座席には、ワインやスナックが用意されており、テレビの映像にはグランドキャニオンの壮大な景色が映し出されていた。


 企画書を見たあの日からちょうど1週間目、私はサンフランシスコに降り立ち、アンソニーの別荘へと向かっている。


 今日から3週間、アンソニーの別荘で過ごすことになる。


「ネットの環境さえあれば、世界中どこでだって仕事できる時代なんだから、あなたが担当するメインページの『世界の男図鑑』はしっかり取材して絶対に成功させてね。頼んだわよ」


 編集長・康代の言葉がしっかりと心に刻まれている。




 でも……今、ここで頑張るぞー!! と声を上げた所で、移動中のリムジンの中では何もすることができない。


折角せっかくだから、ワインを一杯もらっちゃおうかなぁ〜」


 チョコレートのようなビターな香りを漂わせているワインをグラスに注ぐ。


「うぅーん。香りもいいし、濃厚な口当たりは、私好みのカベルネ・ソーヴィニョンだわ」

グラスを揺らし、鼻で甘い匂いを嗅ぐ。


 ぐいっと飲み干すと喉の奥で濃厚なオークとチェリーの味がする。


「うまい! ……さすがワイナリーオーナーが提供してくれるワインの味は最高だな。折角だから、もう一杯だけ頂いちゃおうっと。あれ、ここに柿の種のおつまみがある。気がきくなぁー」


 柿の種とワイン。


 この似合わなそうな組み合わせが、実は私のお気に入りなのだ。渋滞に巻き込まれたリムジンの後部座席で一人宴会を始めてしまった私。


 時差ボケと飛行機移動の疲れも重なり、ナパの別荘へ到着した頃には、すっかり酔いつぶれて眠ってしまっていた。

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