第4話 新企画始動?!

 新会社は、田中信二グループの子会社『Fabulous ・ファビュラス』として始動し始めた。オフィスは手狭だが、社長兼編集長である康代のセンスがキラリと光るインテリアでまとめられている。



 今日は初めての出勤日。社員全員揃うのは初めてで、初顔合わせ&打ち合わせから始まる予定だ。



「はじめまして……プロデューサーの田中信二です。システム担当は私が選んだ二人がチームとして加わり、編集は社長の康代と彼女が選んだ三人が担当します。『Fabulous ・ファビュラス』は、まさに理想の人材で作り上げた会社です。今は、社長以下5人という規模ですが、ここから新しい新風を吹かせたいと思ってますので、よろしく! 」


 康代には聞いていたが、田中信二はなかなかハンサムでダンディなおじさまである。仕事もバリバリとこなす彼は、いつも注目されている存在で世界中を飛び回っている。


 さすがに、アメリカ版「フォーブス」に載った有名人だけあって、強いオーラを感じるな。並んでいる康代さんとは、超お似合いカップル。


 あっ……今はそんなこと考えてる場合じゃないか……。


 社員は、システム担当の小坂達也と朝野リカ。編集•校正担当の宮下真紀と吉野梅野。そして副編集長として花井カレン、……私が就任する。


 肩書きが重いが、やるしかない!


もう、後ろには戻れない。心に誓い覚悟を決めた。


「早速なんだけど……」


編集長の康代が話し出す。


「いろんなコンテンツをこれから発信するんだけど、女性なら誰もが興味をもつ強い連載企画を考えてるの。まずは世の中にインパクトを与えて我が社『Fabulous ・ファビュラス』の存在を知らしめなきゃね。これが企画書だから、目を通して」


 さすがは、康代さん。元女性雑誌編集長。すでに構成も出来上がっており、システム構築もあと少しで完成ということが企画書に書かれてある。


 さらに読み続けると……メイン企画「世界の男図鑑」とある。


 なんだこれ? 気になるといえば気になるが、どんな内容なのか黙々と読み進める。


「うっそー」


「あら、やっとメイン企画を読んだのね」

康代は、眉毛の眉尻を釣り上げて微笑んでいる。



企画 「世界の男図鑑」

担当  花井 加恋かれん

内容  世界各地を代表する男(イケメンに限る)の家を訪問・ステイ

    観光案内をしてもらい各地を紹介。

期間  6ヶ月(毎週配信)

場所  まずは、アメリカ 

人選は田中信二のネットワークから編集長が最適者を選ぶ。



「なんですか? この企画は……!?」


「まっ、簡単に言えば、田中信二のネットワークを利用して、イケメンセレブの家へお邪魔し、いい男の分析をするって企画よ。女性誌じゃ絶対無理な企画だけど、ネットならできるでしょ。女なら誰だって、素敵なセレブ男の事を知りたいに決まってるじゃない。憧れの男を知りたい一般人代表としてあなたが潜入取材して記事にするのよ。すでに最初の訪問先と人選は決まってるわ。どう、面白いと思わない?」



 この「世界の男図鑑」の企画が女性に受けたら、ゲームアプリを開発して売り出したいとまで企画書に書かれてある。


康代と信二は、この企画に自信があるようだ。


「ひとつだけ約束があるの。絶対に恋に落ちないこと。恋しちゃうと冷静な記事が書けなくなるでしょ。相手を恋に落として次の男のところへ行く位じゃなきゃダメよ。じゃないと、ゲームアプリ開発の参考にもならないんだから」


 『椅子から転げ落ちる』…… なんてことはあっても、恋に落とすとか万が一にも考えられない。康代さんと違って私の容姿じゃ絶対無理だってわからないかな。


  頑張って今から女磨きのためにジムに通おうか、いやいや……それじゃ間に合わないよ。


……うーん。


どう考えたって、魅力溢れるセレブを虜になんて絶対に不可能だ!!


「あの……この企画、私じゃ無理だと思います」


ちらっと加恋カレンの顔を見て、何も聞こえないかのように康代が話しだす。


「最初のスティ先は、サンフランシスコ郊外のナパ。彼のワイナリーと別荘がそこにあるの。彼は9月から冬までいつもそこの別荘で過ごすそうよ。で……その人って誰だと思う? アンソニー・モロゾフよ」


「えーっ。あの有名なパソコンやソフトを開発した人で、よく雑誌に載ってる金髪で紺碧あおい瞳の超ハンサムなアンソニーですか?」


「田中が通ったリード大学の後輩なのよ」

話に乗ってきたわねと言わんばかりの顔で康代が答える。


「ネット界のブラピとも呼ばれてるのは知ってるわよね。でも、彼、女嫌いで有名な上に、取材が大嫌い。田中がアンソニーとロスで一昨日おととい会った時に取材のこと直々に頼んだのよ。色気も何もない真面目な女が行きますからって言ったらOKしてくれたんですって。彼、過去に女性関係でトラブルでもあったのかしらね」


ううっ。


 そりゃ、仕事でずっと忙しかったから……女磨きなんてもう何年もしてなかったですよ。色気なんて元々なかったし、でも……田舎の大学とはいえ、学生時代にはミス・キャンパスの特別賞になったこともあるのにな〜。正直、ちょっと落ち込む。



 そんな私の気持ちなどつゆ知らず、康代は淡々と挑発するかのような目で追い打ちをかける。


「あなたの好きなワインが毎日飲み放題! そのうえ、セレブな金髪イケメン男がやさしくエスコートしてくれるのよ。これ以上ない好条件の取材を断るの?」


 本当に夢みたいな条件だ。取材とは言えセレブ生活とワイン飲み放題か……これを断る理由が見つからない。


「うぅぅっ。やらせていただきます! 」


 康代と田中信二のにやけた顔がどこか気になるが、女に二言にごんはない。もう、こうなったら当たってくだけろだ!!


セレブでも女嫌いでもなんでもどんとこい!!


誰にも負けない記事「世界の男図鑑」とやらを書いてやる。



 



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