第2話 やけくその日々!!

「……うぅっ。もう一杯飲もっ」



 二日酔いの迎え酒には、ブラッディ・マリー。

社会人になって自分で作ることを覚えた唯一のカクテル。


 そういえば、琢磨が酔いつぶれて、うちに泊まった日の翌朝、私が作って仲良く二人で飲んだな。


 一体……わたしは今日で何日目の二日酔いで、何杯目のブラッディ・マリーだろう。


 突然の別れ……。


 あの日から休みをとっていたことが不幸中の幸いだけど、目は腫れ、髪はボサボサ……鏡に映る姿はまるでホラー映画のゾンビのようだ。


 な話があると言われ、愚かな私は結婚の申し込みと勘違い。事前に休暇まで取っていた。


 あの時の私の予測では、今頃二人でラブラブな熱い夜を過ごし、彼の親にも会いに行き、結婚式はどうするか……二人の結婚について具体的な話をしている予定だった。儚い夢を抱いていた、馬鹿な私。毎日呑んだくれている今の自分の姿など想像すらしていなかった。


 琢磨の浮気にも気づかない鈍感な自分を殴りたい。悪いのは琢磨とわかっている。彼への感情を掻き消そうと呑んだくれてみても、本心は悔しさだけでなく、彼への炎がまだ残っていることを嫌でも自覚させられる。


「もぅ。私……なにやってるんだろう」


 ブラッディ・マリーで迎え酒を飲んでる私は、いまや世捨て人のような形相で思考まで悲劇のヒロインだ。王子に捨てられた人魚姫のごとく淡い泡とともに命を消せば、この悔しい想いも成就するのかな……とネガティブ思考が頭の中を支配している。



 現実逃避で、携帯の電源が切れていたことすら気づかずに飲みつぶれた毎日を過ごしていた。


 いくら何でも……そろそろ普通の生活に戻らないと本当にダメになっちゃうよな。切れた携帯を久々に充電する。時計は昼をまわっていた。


「はぁーっ」と深いため息をつきながら携帯のスイッチを入れてみる。


ピッ・ピッ・ピ・・・ピ・・


たくさんのメールが一気に溢れ出す。



 無意識に琢磨からのメールを探している自分に呆れるが、琢磨からは一通のメールも来てはいなかった。


「あっ……康代さんからのメール」

事情を知っている康代からのメールだけは、見た瞬間すぐに開いた。



From:康代

【もう飲むのも飽きる頃かと思ってメールしたけど大丈夫? 気持ちが落ち着いたら連絡して……】



 あの日、琢磨は康代さんをわざわざ呼んでいた。私が、ショックを受けてやけ酒するだろうと、すべてを見据えて計画してたんだ。急に腹立たしさがこみ上げ、琢磨への怒りで煮え繰り返る。


 康代さんにはひどい修羅場を見せてしまったな。酔いつぶれてお礼すら言えていない。そう思うと手が勝手に携帯の文字を打っていた。


From:カレン

【お世話になりました。ご迷惑をかけてしまい本当に恥ずかしいです。ごめんなさい。ご想像通り……朝から毎日、迎え酒のブラッディ・マリーを飲んでます。なんとか生きてます】




康代からの返信はすぐに返ってきた。


From:康代

【そう。生きてるならいいわ。仕事の話があるから、明日会える?】


 明日か……もうそろそろ、現実社会に戻れって事だよね。涙も枯れたこのタイミングに連絡してくるなんて、さすがいろんな経験してるだけあるなぁーと妙な関心をしながら現実社会に復帰する覚悟を決める。


From:カレン

【了解。明日、復活します!!】



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