こうなったら世界中の男と恋をする!トラベルライター物語
月星 妙
第1話 突然の出来事
== ピピピッー、ピピピーッ、ビビビビーーー ==
「あー。もう〜!!」
目覚まし時計が、夜の8時を知らせている。
サンフランシスコから帰国したのは、ちょうどお昼の12時を過ぎた頃だった。時差ボケもあり、自宅の布団の中に
このまま眠っていたい衝動に
いつものように、【
◇ ◆ ◇
北海道の大学を卒業し、東京の旅行会社に就職した私は、添乗員として、海外を飛び回る生活をしていた。
ある日……いつものように本屋へ、旅の情報誌を買いに行くと、自己啓発本『あなたにも出来る! ライターになろう! 』という本が目にとまる。
添乗員も楽しいけど、世界を飛び回るライターもかっこいいなと、目にしたその自己啓発本を購入。
ライターに憧れを持った私は、自己啓発本に勇気をもらい、添乗員としての経験や旅行記を女性雑誌に投稿してみることにした。その投稿が出版社に勤める
康代は、投稿した女性雑誌の編集長。紙の出版物が縮小される時代背景もあり、出版部数を増やすことが
ハワイ・グアムなどの穴場レストランを始め、アラスカでのオーロラ見学ツアーなどちょいレア旅行の話、参加した客の面白エピソードなど、記事は読者を魅了し続ける人気連載となっていく。
編集長・
虚しさはあっても、今更、編集長という仕事を捨て、恋に溺れるほど色恋にしがみついたりはしたくない。
◇ ◆ ◇
「お待たせ」
待ち合わせのワインバーに着くとカウンターに、
サンフランシスコ添乗から帰国したばかりの
「ごめん、ワインとチーズを先に頼んじゃった」
「気にしなくていいよ。私も同じワインを注文するわ。あれ、
「康代さんもそう思います? 私も琢磨から大事な話があるって言われてるんです。もしかして、サプライズでプロポーズかなって……。そうなら、すごく嬉しいんですけど……」
頬をほんのり赤く染める加恋は、ほろ酔い気分で上機嫌に微笑む。
「きっとそうね。琢磨……大事なプロポーズの時に二人の記念写真を撮ってもらいたいから、私を呼んだのね。ついでに、お祝いでおごらせる
想像を膨らませながら、二人はワイングラスを手にとり、軽くグラスを合わせ乾杯をした。
ガタン……。
===いらっしゃいませ==
入り口のドアを開ける音と店員の声でドアの方へ目をやると、琢磨の姿が目に入る。琢磨の顔は、いつもと違い硬い表情で笑顔なく引きつっている。
「琢磨、こっちよ」
琢磨を見つけた
琢磨はうつむき加減にカウンターに近づいてくる。
横に、見たことがない若いちょっと色黒の子を連れて……。
「琢磨、この子と知り合いなの?」
琢磨に話しかけると琢磨より先に、隣の色黒の子が片言の日本語で返事をしてくる。
「琢磨の子供がお腹にいる。琢磨と別れて……」
「えっ? なんですって?? 」
突然の告白にびっくりし、 驚きのあまりワインさえ吹き出しそうになる。
「ちょっと、あんた……何言ってんの! ……琢磨、一体どういうことなの」
「私……琢磨の子を産む。琢磨のこと愛してる」
女は、お腹に手を当てながら挑発するような態度で話しだす。
「琢磨の子って……」
琢磨とは、お互いの仕事のこともあり、避妊にはすごく気をつけていた。なのに……今、この目の前にいる女が琢磨の子を宿したと宣言している。
「ちょっと、琢磨。説明してよ!! 」
琢磨は、困った顔をしているが、意を決して話し始める。
「ごめん。この子とはフィリピンパブで知り合ったんだけど、色々と相談を持ちかけられて……相談に乗っていたら……そう…こう…こうなって……」
「なに言ってんの……ちょっと、琢磨。いい加減にして!! 相談に乗ったんじゃなくて、その子の体に乗ったから子供が出来たんでしょ。いつからの関係で、これからどうするのよ」
「この子と知り合ったのは……半年くらい前かな。……この子の宗教上の問題で子どもは堕ろせないらしいんだ。だから……どうしていいのかわからないから…話し合おうと思って……」
そんな加恋に変わって、冷静な康代が色黒の子に低い声で話しかける。
「本当にお腹の子は琢磨の子なの?」
「私は、そんなふしだらじゃないよ。この子は琢磨の子」
色黒の女は、不本意な質問だと言わんばかりに口を尖らせる。
「じゃ、琢磨……あんたはどう思うの?」
「……俺の子なのかも……と思う。この子が薬を飲んでるから避妊しなくていいって……だから避妊したことなかったんだ」
「ばっかじゃないの。そんなの、この女の罠に決まってるでしょ」
「で……琢磨はこの女と
低く冷静な康代の声が静寂を呼ぶ。
「………それを……相談したくて…」
"" バシッ ""
「ふざけないで。こんな仕打ちをされてまで、琢磨と付き合えるわけないでしょ。琢磨は、この女と好きなようにすればいいわ。私とは
溢れる涙を我慢して、琢磨を
「……ごめん」
琢磨は女の手を取り、静かにバーを後にする。
ごめん……ってなによ。
なにがごめんなのよ。ずっと私を騙しておいて……
大事な話があるだなんて言って、妊娠を知らせに来て、事実を認めさせただけじゃない。最初から彼女と一緒になるつもりでここに連れて来たたくせに……。
ぐいっとワイングラスのワインを一気に飲み干す。
「
康代の低い声が、聞こえたのを最後に、私の記憶はお酒の量とともに途絶えていった。
翌日、マンションで目が覚めた時、ひどい頭痛と吐き気で現状を知ることとなる。
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