優雅舞踏の炎と、仮面舞踏の皮肉

 だからこそ、一番槍は彼女の友達だ呼んで連れてきたリゼだ。その役割を絶対、赤い髪とケープを翻す彼女は譲らない。

 リゼがようやく、緩やかな動きでサーベルを引き抜く。

 美しい。

 動作、所作、挙動。極めれば人体のそれは芸術の域に辿り着くのは武芸も同様。それは周囲を囲み、守ってくれている学友たちが示しているが、リゼは別格だ。ひとつ、ふたつと図抜けて、自分との差がどれ程あるのか分からない。

 判らないから、美しい。

「……いくわ」

 白銀のサーベルは瞬間、焔を宿す。灼熱の赤を帯びて染まる刀身。最上級、それも銘が残る程の業物とみれば判るそれに、途方もない魔力が絡み合っている。

 それは揺らめく火が、火焔の翅へと変じた時。

 どくん、と、その場の誰もの鼓動が脈打つ。




 それは風に舞う、蝶の翅が瞬くように。

 音なく、動く気配もなく、瞬間、リゼはそこにいる。



 

 間合いも距離の概念も知らないと跳び越えるように。

 夢の蝶に、現実の条理など通じないのだ。気付けば、もう斬るべき対象の傍にいた。

 客席となる二階。そこまでの床も壁も、音もなく一蹴。貴賓席に当たる場所で構えていたゴーレムの懐へと踏み込むリゼ。赤いロンゲケープが、ふわりと靡く。

 そして、炎刃も翅のように舞うのだ。

 見えない。神速は音さえも切り捨てている。紅の剣閃が瞬き、鋼を越える強度を持ったゴーレムの身体を切り刻む。都合、五つ。斬られた瞬間に燃え上がった傷口が、幾重にも繰り出された斬撃の数を教える。

 ひらり、ゆらりと。臙脂のケープが優雅な蝶のように舞っている。

「そこね」

 だが、ゴーレムは痛覚を持たなければ、身体の構造に骨も筋肉も筋もない。鉱物の身体が認識、反射で巨大な肘を打ち下ろす。

 音が悲鳴を上げて爆ぜる。大重量の槌の炸裂は、しかし、床に飛び散っただけだ。それも、階段を作る石材ではなく、ゴーレムの肘から、自らの衝撃に耐えきれずに砕け散っていた。

 残る炎は緩やかに。

 通り過ぎたリゼは、片手で振り抜いたサーベルの切っ先を見つめている。感触を確かめるように、指が柄を這う。撫でるように、握ったまま、指で握り締める強さを確かめて。

「ゴーレムは核さえ壊せばいい。再生するのにも魔力が必要だから、身体の何処に埋められているか不明でも、傷の再生の速さで差がつく。近いほうが再生が速い。血管、神経のひとつなくても、魔力の巡りはあるの」

 それがリゼによるセレンへの応援だったのだろう。

 たったひとつ、例を見せる。それで切り抜けて欲しいと激励をおくるのは、まるで火炎の祝福だ。

「私の場合、斬った対象の魔力で傷口を焼いている。火勢が強ければ、そこが核に近い。そうでなくとも、核を中心に魔力は巡っているから、観察して気をつければ、ただの木偶ね」

 実際、言っている事は本当だ。

 出来るかどうか知らない。自分が出来るからして見せただけ。

 方法なんて幾らでもある。あなたのことは、あなたがしっているでしょう?

 私はもっと、苛烈に熾烈に、そして綺麗に舞いたいだけ。

 ルビーの瞳が、妖しく、濡れるよう光る。直後に余計な光陰はかき消えて、明鏡止水の域へと容易く到達しながらも、ひとつの想念が視線に流れる。


――――クー、私は……


「……っ…」

 瞬間、紅蓮の舞踏会が二階で咲き乱れる。

 それは炎剣の百花繚乱。血の一滴もなく、斬撃の音もなく、静かに、燃えさかる炎の旋律と砕ける余韻ばかりを残して、なお、赤く、紅く、剣閃が瞬く。

 炎で巻き上がる気流が、炎蝶の翅をより美しく舞い上がらせながら。静かな夢のように瞳では捉えようのない熾烈な焔刃と共に。



「セレン様。あれが『焔蝶』で御座いますよ」



 瞬間、セレンの眼前で弾けたのは雷鳴だ。

 見ればヒビキの持つ大太刀が纏う紫電が弾けながらも絡みつき、今か今かと龍の牙のように鋭く輝いていた。

「最強、とは、私はいきません。本当に人の領域を超越出来るのは、血筋などではないのです。龍人の私が諦観を述べるなど可笑しいでしょうが」

 瞬間、側面より強襲するゴーレム。迎え撃つのは紫の長刃だ。

 いいや、それは本当に刃だったのだろうか。視認できる程度の速度で振るわれたのに、腕で受けようとしたゴーレムをそのまま粉砕して、十数メートル後方まで吹き飛ばしている。

 受けた腕は両断され、刃の届いただろう胴体は、そこに破砕槌でも受けたかのように無数の亀裂が走っていた。カウンターにしても恐ろしい衝撃だが、そもそも相手には騎馬の突撃じみた速度と重量がある。

 それを容易く吹き飛ばすグレイブの長刃を振るった細い腕。紫髪の少年はウィンクとともに悪戯っぽく悪う。貴族めいたミステリアスさを乗せて。

「それでも、ですよ」

 リゼの動きに眼を奪われていたのは数瞬だ。

 だが、その間にもう乱戦へと突入している。先の紫の少年と、ヒビキが円陣でも直護のように守ってくれていなければ危なかっただろう。

「大概、人は己が夢の為に歩み続ければ、いずれ辿り着く境地が御座います。到達者。人類の最高峰。……ええ、そこまでいけずとも、周囲に認められずとも」

 瑠璃色の瞳が揺れる。紫電が爆ぜる。そして、それは全て銀色に。

「己が夢まで、必ずや」

 轟音は駆け抜ける雷鳴が奏でたもの。リゼがしたように、けれど、清冽な激しさをもってコロシアムの端までを踏破し、眩い剣閃が地下に、巨大な白銀の三日月を描く。

 疾風迅雷。現実の光景を揺るがす程の速さで、ヒビキは轟く音色と共に斬撃を放っていた。

 その軌跡にあったのは五体ものゴーレム。繊腕にて振るわれた大太刀は、それらを全て両断している。

 焼け焦げた匂いが満ちる。ぐつぐつと雷撃の熱で溶けた、あるいは蒸発してしまった泥と護符が、断末魔の代わりに匂いを出すが。

 それでもなお香るのは、やはり清々しいまでのヒビキの声。姿なき花の香りのように、周囲に満ちる。

 ヒビキ――『無香花』ヒビキ。

「故、まず第一歩を」

 二刀を持つ黒髪はゴーレムの両膝を切り落とし、茶髪の青年はまるで見切っているかのように紙一重で豪腕を避けると刺突。脇腹に刺さったこと思えば、そのまま払って、次へと。まるで心眼と共にあるよう導かれた切っ先に護符を射貫かれたそれは、ばらばらと崩れていく。

 炎弾の爆裂。強酸の波頭。四方で英雄、烈士と称えられるべき程の力量を、武を、力を、魔を振るう『学友』たち。

 みるみる数が減る。百五十はいたゴーレムも、すでに、百とちょっと。

「いやいや、それでも数が、ですね。まったく、もう」

「悪い、一体通した。選別」

 膝を切り落とされても、この僅かな間で再生したゴーレムがセレンへ駆け抜ける。握りしめられた拳は、並大抵の盾や鎧どころか、城の防壁さえ砕くだろう。そういうものだと、この眼で見ている。耳で聞こえている。

「ん、了解」

 慣れたのだ、セレンは。

 切り替わったのではなく、組変わったのではなく、セレンの順応は才能として、ここで開花している。

 どんな戦場にも人は慣れる?

 そんなことを、彼ら、まるでエインフェリア達の中でいえるだろうか。

 次の瞬間、生きているかも判らないような、此処で。

 実戦など、数えるだけしか潜り抜けていないセレンが。

 無理。故に、これは才能。

「……っ…」

 振るわれる腕は横薙ぎ。回避は可能だが、次に続かない。

 故に刀身の腹に片手をあて、騎士剣で受け止める。衝撃、の前に腕の流れる向きと捻りに合わせて、同方向にねじれるように飛ぶ。

 衝撃は身体の骨の全てを砕くかのよう。決して生身で受けていいものではなく、骨の罅が入ったのを痛みで知る。

 だが、その程度で済んだ。抑えた。同じ速度で横手に飛べば、などという生ぬるい芸当ではなく、さらに腕の捻れに巻き込まれないように従って。

 激流のような勢いと衝撃にぴったりと合わせ、刀身が砕かれないように身にも衝撃を流し、隅々まで分散してから外へと流している。

 殆ど曲芸。完全に成功していないのは悲鳴をあげそうになる激痛が知らせている。崖から転落する勢いと回転をいなしつつ、そのまま着地するようなもの。が、必要だと思ったのだ。

「痛ったいな、もう」

 これの腕力を知る必要がある。

 どの程度の攻撃力か、突進のスピードは。果たして、セレンの騎士剣はこのゴーレムに通用する強度があるか。

 知らず受けて、即戦闘不能か致命傷。そちらが怖い。だから、まず安全と見た時に受ける。

「ついでに、追撃の速度もねって」

 派手に二十メートル以上を吹き飛ばされつつ、そのまま転がり跳びはね、起き上がる。賢者の育成には天才以外、不要。その中でさらに一握りがたどり着ける境地――リゼの登った二階の一面は、悉くが紅蓮の色彩に、それこそ夢の赤い花畑を現に咲き誇らせている。

 花びらが舞う。切り裂いたものを燃やして咲き誇りながら。

 赤い少女が吐息をつく。幾ら斬れど、木偶如きでは震えることもない、赤いサーベルと共に。

「リゼの、友達だもの」

 あれの友達でいたいと思ったのが本音だと、命の危機だから鮮明に判る。理解する。意識して自分の本当だと判って、嬉しくて。

 鼓動が跳ねるように飛ぶ。追撃にと駆け抜けるゴーレムへ。

「そこ!」

 横に擦れ違い様に袈裟斬り。他の生徒、剣士がやっている事に比べれば劣るように見えるが、それは派手さでみればだ。

「流石、まずは、第一歩で御座いますね」

 雷鳴の後に、残響のように聞こえたヒビキの賞賛。神業めいた受け身の後、身体のダメージを無視して突進へのカウンター。

 恐れはない。震えもない。動きに問題は何もないのだ。

 判断力、胆力、そして、迷いなく実行して成し遂げる剣術。

 ゴーレムの脇腹を斬った感触は、鋼鉄の塊を相手にしたかのようだ。指は痺れ、掌は震えて、罅の入った骨は悲鳴をあげ続けている。うるさすぎるからこそ、無視する。

「ま、家に感謝と」

 旋回するステップに身を屈める動作を。途端、頭上を通り過ぎていく黒い巨腕。反撃に出るゴーレムは、リゼが見せたように痛覚などないのだ。

 そんな相手に、痛みをもって対応して勝てるのか?

 答えは――YES。

 セレンの持つ刀身が、いつの間にか纏っているのは薄い水の膜だ。ただし、純粋なものではなく、余分なものが混じっている。

 剣の研磨に使う砥石の粉、だとか。

 宝石細工の最後の施しに使う金属の粉末など。

 震え、擦れば、触れたものを削り取る、水の中の無数の微細な刃たち。

 ようするに、より斬撃の鋭さを高める為の水流の振動を纏う刀身だ。

 これはリゼのように斬った相手の魔力に反応して効果を出すなどないが、痛めた身体でもどうにかゴーレムを切り裂くだけの威力と、敵の攻撃を真向からでも受け止める衝撃緩衝の効果がある。

 家に伝わる魔剣らしい。よく知らない。それよりも、前。

「はっ‼」

 切り上げの一閃。跳ね上がりながらの勢いをもったそれで、ゴーレムの体幹近くを斬りつける。当然の反撃は、けれど、鈍い。

 それどころか、回避したセレンをさらに追おうとして、膝をつく。それをなしたのは決して魔術などではない、単純なセレンの剣術だ。

 先んじて、或いは後から攻撃の挙動の要となる部分を見極め、そこへと一撃を叩き込む。中身に骨と筋肉がなかろうが、重心というものは存在するのだ。そこを狂わせれば、どんなものでも物質の動きは乱れる。

「地味だけれど、ね」

 故に先手、後手と相手に合わせてリズムを変え、斬撃を放つ。

 教えられたハイランドの剣技の中でも、最も得意な諸手でのカウンター。そしてモノの重心を見抜くのは、今までの経験の中で活きている。

「ははは、可笑しいねぇ」

 お皿が十枚重なっていたら、何処が危ないかとか。

 逆にそれだけ積んで運ぶにはとか。洗い方とか。そんな戦いに活きる筈のないものが、妙に噛み合っている。

――無論、そんな筈はない。もっと不条理の極みをセレンは実行し続けている。



「ようするに、相手のしたい、求めていることの中心と重心を、心を見ずに、挙動で察してしまう。……悲しい才能よね。でも、動きや表情、声は嘘をつかないもの」



 相手の求める配役を演じるならば、その要は。

 腕のふり、足にどれだけの重さ。重心はどこ。相手の一部ではなく、全体を捉えることで、次に求めている動作を先読みする。

 使っている才能はそちらのもの。ただし、他にも断片的なものが掛け合わされて、混ざって、不器用な、けれど恐ろしい精度で敵の動きを封じるカウンターを繰り返している。

 天才以外いらないし、リゼに言わせれば、クレリアの教室にたどり着けた時点でもう才覚はあるのだ。仮にただの天才なら、賢者候補生の中で平均であればあの赤い廊下の時点で、意識が混濁して倒れ込んでいる。

 誰かに頼ってもいい。

 その後、自分で道を歩けるなら。

「厳しいもの、クー」

 私には甘いけれど、という言葉は飲み込んで、頬を緩ませてしまうリゼ。

 ただ、ぼんやりするのは好きでも、そういう時間ではない。すっと表情を整え、セレンの戦いを見つめる。

 幾度となく放たれるカウンター。相手が自分から無理に攻め続けず、リズムを変えて対応すれば即座に押しつぶされる稚拙な剣技。

 天才。ただし、まだ未熟。その可能性が刃となって奮われる。十、二十と、護符がある場所が判らないならと繰り返し、繰り返し、岩を穿つ水滴のように繰り返して。

「……っ…」

 ここに努力が結ばれる。

 身体中、刃を通していない場所がない。

 一度、黒髪の青年が切り捨てた膝から下は思考の外に放り出し、腕、肩、胴体、腰と狙っても何処にもない。残るは頭と首。

 故に二択。兜割りの如く頭部を狙うか、喉を刺すか。

 どちらも外した時のリスクが高すぎる。巨体にたいしてセレンは少女だ。喉を狙うなら跳ね上げるような刺突。兜割りなら跳躍して、だが、外せば死ぬ。カウンターで崩せる重心は頭と首にはない。脳があれば別でも、これはゴーレム。不条理だからこそ、傲慢なまでの回答が要求されている。

「ようするに、二つともすればいい」

 ハイランド。草原に吹く風は誇り高い。

 完全に殺す。定まった瞳は腰からダガーを引き抜き、その挙動で一歩遅れ、頭上から落ちるゴーレムの腕。

 髪の毛を引きちぎられらも避ける。紙一重。故に前進し、跳ぶ。

 まるで太い首に絡みつくように伸びる腕。勢いを増すようにそのままくるりと空中で回転し、加速。相手の振り払う動きも乗せて。

「っ」

 そういえば初撃で腕の骨に罅が入っていたのを思い出す。びしりと、それが広がりながらも、騎士剣と短剣、それぞれ手放さず、振りほどかれる寸前、勢いと自分の体重を乗せた短剣を閃かせる。

 狙いは喉。魔術は施していても、騎士剣ほどではない。無理に押し込まれた短剣は、中ほどまでしか埋まらない。

「そう、だから、『足場』になる」

 振りほどかれ、それでも、まるで空を舞う曲芸師。いいや、そもそも軽装備を好む剣術は、こういう頑強な相手を惑わす為のもの。

 短剣の柄に、爪先だけで着地し、跳躍。そして、全力の一刀を振り下ろす。

 声は出ない。息が続かない。これで駄目なら打てる手がないのだ。余力をこの土壇場で逃さないのも、剣を振るう騎士の才覚で、受け継ぐ血統が生死の境を見て全身に全霊を絞り出せと号を発す。

 長い弧を描く水刃の一閃。長剣の切っ先は高速で振動し、削り取る水の膜の加護と全体重の落下を加え、頭部を真っ二つへと切り裂いていく。容易ではない。ヒビ割れた骨が痛いと悲鳴を上げている。でも、貫き通したいと、刃が突き進んで駆け抜けていった。

 それでもゴーレムは動く。動いてしまう。頭部に核はなく、斬り裂いても無駄だと斬られた頭部が語っている。喉に刺さった短剣は浅いから。そこにあるだろう核に届いていない。


「ね、『足場』がそのままである必要なんて、次の場所へといく為なら、ないわよね」


 リゼの囁きがした。

 そうだねと頷き、全力で短剣の柄頭を蹴り飛ばす。さらに深く埋まる。が、距離が離れる。腕が握られて引き戻される。縦に割れた頭部が、泥を横から合わせるようにくっついていく。

「まったく、だよね」

 笑う。そして、着地するより早く、ゴーレムの一撃より早く、過去の自分の何よりも迅い烈閃。

 青い煌きは纏う水。純粋なだけのモノより美しい、水流の刃。

 狙ったのは短剣、その柄頭だ。まだ衝撃の余韻で震えるそれの真芯を捉える精密さと、それを貫き通して鍔と柄が食い込むほどに強烈さ。これほどの斬撃、繰り出せたことがない一太刀だ。

 いいや、そんなこと全く考えていない。だから出せた、限界を超えた剣。けれど、それは確かになった。

 ばきりと、木の崩れる余韻が腕に伝わる。

 動きが止まる。崩れる。降りぬかれる直前だった腕は目の前で動きを止め、ばらばらと泥となって崩れていく。

 勝利の余韻。

 そんなものはない。続く高揚は闘争のそれだ。

 鼓動が早い。呼吸が危険。倒れ込みそうな疲労を感じつつ、周囲を見る余裕もなく地面を転がり、抜け落ちた短剣を拾う。

 だが、ようやく胸から吐き出した言葉は、悲鳴に他ならない。

「馬鹿じゃないの、私!! 今、もう少し遅かったら、頭がミンチのハンバーグだよ!? ううん、頭、挿げ替えてもらったほうがいいかも。いやいや、授業で訓練で死ぬのは頭、可笑しいよ。頭」

 呼吸を整えるより、吐き出される怒涛の言葉。元々お嬢様という柄ではないが、殆どバーサーカーだ。自分がそんな気質を持っていたことに驚愕して、混乱のままに怒っている。

 リゼが危うい。心配。危険。何それ。私のほうが危ないよ。

 そう、思うけれど。


「綺麗な勝ち方ね」


 それは賞賛の温もりを帯びているから、笑ってしまう。

 無数の焔蝶が舞う。サーベルが降りぬかれる度に。

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