星は軋む、夜明けの空に~セレン~
何かになりたいと思った。
けれど、知りたいのは今の自分で、そして、成りたいものなのだ。
今の自分が何なのかセレンは判らない。元々のルーツもよく分からない。
周囲を真似るのが下手に得意過ぎて、何が得意かもわからないのだ。
走るのが早いからと自分は小鹿だと妄信できたら簡単だっただろう。
編み物が得意。焼き菓子が得意。料理が。剣術が。歌が。何だっていい。自分はこういうものだ、という自信がないのだ。どんな風に産まれたのか、原点が判らない。突き抜けた自分が、ない。
これが強い想いだと誇れない。これが自分の感情だと、核となる確信を抱けない。
クーというひとのため、だなんていうリゼは綺麗だった。
切実で、苦しそうで、無自覚の恋に悩む姿は、可愛らしい。そして、強く、気高い。
だというのに、その姿に嫉妬のかけらひとつ覚えない。
ああなりたいとは思えない自分が、空虚だった。
そういうものが、どういう理想を抱いていけるというのだろう。
小鹿が海を泳ぎたいと願ってもかなわない。
そんな無謀と無意味、するだけの愚かさがなかった。
セレンは産まれて、今に至るまでの自分が何なのか判らない。
……どう変わり、成長できるのか、判らない。
模倣するだけの人生。少しの、絶望。針でさされたような痛み。
獣は魚にも蝶にはなれない。
羽ばたく翅がどんなに欲しくても。狂おしい程の想いで、空と海の続く果てを見つめても。
そんな現実を前に、絶望するなだなんて、どういうことなのだろう。
そうやって諦めるほど――セレンが弱くないのが、悲劇だった。
針の道の上で歩き続ける。
………………
…………
……
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