泣く子と自衛隊には勝てぬ……。
とは言うものの、このようにすべてのシーンにおいて撮影が順調に進んでいると思われがちだがそうでもない。
撮影中に起こった、ちょっとしたアクシデントみたいなことをここでまとめておこう。
まず最初は、これまで何度も恨み辛みを書き記した北風さん。
我らエキストラの貴重な体温を奪い去り、あまつさえ効果さんが撮影現場にまいたスモークを軽々と吹き飛ばしてしまう。
これまでの話でスモークが吹き飛ばされたシーンは一つしか書いていないが、実はこいつのせいで何度もスモークが吹き飛ばされているのである。
次にオートレース場にやってくる一般のお客さん。
普段、オートレース場は場内でのレースがない時は、場外車券を買うお客さんの為に一部の車券売場や施設が無料開放されている。
もちろん今回の撮影時には、撮影場所であるグリーンスタンドの第七発券場、そして正門ゲートは封鎖しているのだが、撮影を知らない年配の男性が話しかけてくる。
「おう、なんだ、
「あ、今、撮影をしているんです」
「ほ~ん、じゃどっから入れるんじゃ?」
すいません、名古屋から今日初めてここに来た、着物を着たおっさんに向かって、その質問は酷です。
「あっちのゲートから入れるんじゃないですか?」
幸いにもどなたか助け船を出してくれた。
でもまぁ、あっちというのがどこなのか、そのときの俺様には知るよしもなかったが、あとで調べてみるとどうも西ゲートみたいだ。
そして! この日の撮影で一番のやっかいごとが文字通り、天から襲来してくるのであった!
あれは、青空が徐々に夕焼け空に変わり始めたころ。
時計は見ていないがだいたい午後四時ぐらいだろう。
”バラバラバラバラバラバラ!”
このドラマは刑事物でも鑑識官物でもサスペンス物でもありません。
後、バラバラ死体も出てきませんから、どうぞご安心を
突如、空一面! いや撮影現場どころかオートレース場すべてをも満たす
『擬音、
と、石を投げられてもかまいません。
だって、そうとしか表現できないんですもの。
俺様も一瞬何かわからず、近所で道路工事でもやっているのかと思ったが、こんな夕方から? と首をかしげる。
撮影も一時中断し、監督さん以下スタッフさんの間でも
「何の音?」
と顔を見合わせている。
そこへスタッフさんの一人が
「これって、自衛隊ですよね?」
「あ~そうか、ヘリか~!?」
爆音の出所がわかった監督さんも
「あちゃぁ~」
と嘆きながら、トタンの屋根越しに爆音を発しているであろうヘリコプターに向かって顔を上げていた。
そう、この浜松オートレース場のすぐ北西には、航空自衛隊浜松基地が鎮座しているのである。
ちなみにこの浜松基地、他の航空自衛隊基地に比べて街中にあり、すぐ近所には我らがいるオートレース場等『遊び場所』が多数ある為、希望任地先として人気が高いらしい。
もし、オートレース場に自衛官らしき人がいらっしゃっても、何も言わずどうか見守ってあげてください。
消防活動が終わってコンビニに寄るだけでも非難の目にさらされてしまう昨今。 ここに来る時はさすがに休暇中で私服だろう。彼らにも息抜きは必要なのだ。
トタンの屋根で
不謹慎だが、ほとんどのスタッフさんが音のする方を向いて棒立ちになっていたのはちょっと
まるで昭和基地へ物資を届けに来たヘリを見上げるペンギン……失礼。
確かに、これほど大きい音では、先ず間違いなくこの爆音をマイクで拾ってしまい、もはや撮影どころではない。
撮影現場ではたとえ監督さんといえども自由にならない物が存在する。
赤ちゃんを使った撮影は、その筆頭であろう。
機嫌が悪くぐずったり、泣きわめいては撮影どころではない。
こればっかりは赤ちゃんのご機嫌次第である。
カメラのフレームの外で、お母さんが一生懸命赤ちゃんに向かってあやしたりする姿は、もはや撮影においておなじみの光景である。
そしてこのヘリの音。
いくら天下のNHKといえども、親方日の丸、そして旭日旗にはかなわない。
呆然とする俳優さん、監督さんやスタッフさん、そして我らエキストラ達。
そうこうするうちにピタッとヘリの音がやんだ。
”よし!”とばかりに撮影の準備をするスタッフさん達。
しかし数分と立たずに再び
”バラバラバラバラバラバラ!”
と、辺り一帯にヘリの爆音が轟く。
”あ~あ”と、もはや脱力するしかないスタッフさん達。
口々にヘリについて語り合っている。
「これ訓練ですかね?」
「飛んでいる様子はないから整備かな?」
そんな中、助監督さんが監督さんに向かって
「いつまで(ヘリが)飛ぶのか電話してみますか?」
監督さんは
「(基地の電話)番号知っている?」
と聞くと助監督さんは
「携帯に入っていますので」
「なんで入っているの!?」
と監督さんは苦笑い。
う~む、まさしく”こんなこともあろうかと”である。
撮影中でおこりうるであろうあらゆる事態を想定して、さらにそれに対処しようとする姿勢は
助監督さんが携帯で今まさに電話しようとしたところ、いや、本当に電話したのかもしれない。すると辺りはまるで我々の空気を読んだかのように
“ピタ!”
と擬態語を使ったかのように、ヘリの爆音が止んだのである。
スタッフさん達も”そらいけ!”とばかり、撮影を再開する。
幸いにもこれ以降、ヘリの爆音が辺りを轟かせることはなくなり、撮影は続けられたのであった。
ちょっとしたアクシデントであったが、朝から撮影の為緊張している監督さん以下スタッフさんの脱力したお姿を拝見できて、少し得した気分であった。
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