ドナドナ&イモ!?
『看板の前まで歩き、待ち合わせしている年配夫婦さんと女性さんと出会う中年男』役の終わった俺様を始め、エキストラさん達はしばしの休息を得る。
『主人公以下集団就職生が、会社の人間に先導され離ればなれになる』シーンの撮影が始まる為である。
あ、シーン名も勝手に名付けちゃいました。てへっ!
この文だけみれば読者さんの中に、ある唄の題名が思い浮かぶだろう。
でも俺様が先に言っちゃう!
そう! 『ドナドナ』である。
現代の日本経済の礎を築いた人たちを子牛にたとえるのは大変不謹慎であるが、思ってしまったのはしょうがない。
子犬や子猫が里親に出される様も想像してしまう。
シーン名の通り、主人公や幼なじみ、集団就職生がフレームの中心になるため、半分近くのエキストラさんがこのように休憩と相成ったのである。
午前と同じように、午後におけるストーブ場所取り競争に負けた俺様は、皆様の脚の間から漂う、人類の英知が生み出した赤外線のおこぼれをもらいながら撮影を見守る。
『練習いきまーす』
『練習!』
『練習!』
撮影シーンを第三者の目で見るのは、この撮影に参加して初めてだろうか?
やはり主演様中心のシーンとなるため、スタッフさん達の間にも緊張が走る。
『用意! スタート!』
最初に移動するのは幼なじみの男の子。
就職するお米屋さんのご主人が現れ、彼を引き連れていく。
その背中に声をかける主人公と幼なじみの女の子。
「○○(男の子の名前)! 頑張れ!」
「○○! しっかりな!」
それに答える男の子。
「ああ! 手紙、書くからな!」(以上、台詞うろ覚え)
遠ざかっていく男の子。それを見守る主人公達。
『ハイ! オッケーです!』
初めて見る男性が主演様以下スタッフさん達に指示をしている。
確かに今まで主演様以下役者さんに背中を向けていたから気がつかなかったけど、あらかじめ番組ホームページをチェックした写真から察するに、あの方が監督さんか。
本当は主人公の母親役の方が見えた時からいらしていたかもしれないが、お姿を見たのは初めてである。
なるほど、スタッフさんが緊張するわけである。
それに反して、撮影に参加しないエキストラさん達の緊張はストーブの炎によって解凍され、こんなぶっちゃけ言葉が飛び出してきた。
「今度の主役の女の子、ちょっと芋っぽいな」
ある一般参加エキストラさんから飛び出してきた言葉に、俺様は一瞬固まる。
あれ? この人って、さっき俺が待ち合わせした年配ご夫婦の旦那さん?
ホワット!? 芋? イモ? ポテト? いやサツマイモならスイートポテトか?
苦笑する周りの人たち。
くれぐれも、私が思ったり言ったりしたことを旦那さんに代弁させたわけではございません。誤解なきよう。
ものすごい失礼な言葉だと、そのときは心の中で思ったが、よくよく考えてみると主人公は茨城の農家の娘さん。
それが父親を捜すため、集団就職で上京してくるのだから、言葉は悪いが田舎者、俗に言う”いなかっぺ”でなければいけない。
そう考えれば、芋っぽいという評も実に
まだエキストラさんと顔見せして数時間と経っていないのに、視聴者でもあり、二年越しで朝の連続テレビ小説のエキストラに参加している旦那さんの口からこうも言わしめるとは、主演さんのオーラというか、演技に脱帽する想いである。
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