一人として同じエキストラはいない
いよいよ練習開始!
俺様のエキストラ、そして輝かしいスターへの第一歩だぜぇ。
数人のAD(?)さん達が、我々素人の案内をする。
「貴女はここからあちらへ歩いて下さい」
「貴方はここを曲がってあそこへ……」
なるほど、動線を読み、まんべんなく人が画面上に散らばるようにか。
そして助監督(?)さんの合図が轟く。
『練習行きます!』
そしてADの方々も叫ぶ。
『練習で~す!』
『練習!』
『練習!』
何もADさんを始めほとんどのスタッフの皆さんが叫ぶことないと思っていたのだが、その理由があとで明らかになる。
『用意……スタート!』
かくしてエキストラの第一歩が始まった。
『……』
しずしずと着物のこすれる音と、
そして十秒ぐらいして
『ハイ! オッケー!』
終わりである。
あっけない。
こんなモノか?
これを夜の十時までやるのか?
と疑問に思うのだが、うい○う(ローカル名物)に小倉あんをぶっかけ、ク○ピーラムネ(ローカルお菓子)をちりばめたような甘いモノではなかった。
助監督さんが拡声器で説明をする。
要約すると……
一、最初はカメラの前へみんなが歩いて行くが、その後クモの子を散らすように誰もいなくなる。
・つまり、撮影現場の端っこへ行ったら戻ってきて欲しい。しかも、すぐ戻るのではなく時間差で。
二、ただ歩くだけではなく、何か仕草、動作をして欲しい。
・髪の毛を触ったり顔を
・真っ直ぐ歩くのではなく、人混みをかき分けたりするとか、何かを思い出して急に立ち止まって引き返したりするとか。
……なるほど、通行人、エキストラとはただ歩くだけではない。
『歩いている人間それぞれに人生があり、それを演じなければならない』
通行人には当然老若男女が、さらに、その時その場所で何を考え、何で歩いているのか、それぞれ理由がある。
何百人、何千人もの人間が一度に渡る渋谷のスクランブル交差点から、のどかな田舎道をただ一人歩く通行人まで、同じ仕草、歩き方をする人間は誰一人としていないのだ。
なるほど、ゲームではMOB、NPCと呼ばれる我らエキストラ。
しかし我らは血の通った人間だ。
ゲームのキャラみたいに皆が同じ仕草、同じ台詞を話すわけではない。
『自然に
というわけか。
うむ、いいこといったドヤ顔をモニターの前で浮かべる俺、キモイ。
こうして練習が繰り返された。
実は中(年)二(次元)病の俺様からでもわかる、明らかに気配、オーラが違う方たちがいつの間にか、いや、最初からいらっしゃったのかもしれないが、一緒に練習していた。
そう、プロの役者さん、プロのエキストラの方たちである。
まさにお上りさん状態で上野駅にきた田舎者という我ら一般参加とは違い、その容姿から演技まで、まさに映画やテレビドラマの画面に写る姿そのものである。。
いかにも“昭和の洋服”を召し、髪を軽く”ぱあまめんと”された、つまり国民的アニメの海産物母親みたいなお姿の女性が、魚卵の名前の子のような子役さんの手をつないでいる。
大変失礼な俺様の物言いに、今ちょっと軽く背筋が凍った。
そしてベレー帽をかぶり、ベストを着たちょっとおしゃれな格好の男性から、
実はこのお二人、後々の場面で出てくる方たちなのだ(うろ覚え)。
そして、忘れてはならない駅員さん。
あと、上野駅は巨大で人の往来も激しい。
警官らしき格好の人もいらっしゃったが、鉄道公安職員(鉄道公安官)かもしれない。
この辺はマニアじゃないから断言できないが。
そうかと思えば丸めたゴザを小脇に抱え、当時の言葉では乞食、浮浪者。今の言葉ではホームレス、路上生活者と呼ばれる方たちまでいらっしゃる。
自分が一番驚いたのは
一年前のことだし、なおかつ眼鏡を外されたのでよく覚えていないのだが、確か黄土色の軍服を
そして投げ銭を受けるため、その楽器が入っていたであろう鞄を地面に広げていた。
終戦から二十年近く、未だそういう方たちが上野の駅にいたのかと疑問になっていたのだが、シベリア
日本に帰国した彼らの眼には、当時の上野駅の喧噪はどう写ったのだろうか……。
こうした方々と一緒に何度も練習が行われる。
俺様は『眼鏡……眼鏡……』状態のまま、何とか他の人と”ごっつんこ”せず、無事にこなしていく。
そこへ
”ピピー!””ピピー!”
『なんだゴラァ!』
『待てこの野郎!』
けたたましい笛の音と怒声が飛び交った。
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