撮影現場の朝食&始まる前からNG連発!?

 準備が終わった人から朝食が渡される。

 渡されたのは紙パックのお茶とコンビニに売っているような、小さいおにぎり二個に唐揚げとぎざぎざウインナー、そして沢庵が入っているミニ弁当のような気がする。

 普段は朝食は食べないのだが、なんとなく、ある予感を感じ取ったのかもしれない。

 とりあえず口に入れておいた。

 口に含めば、体は食を求めてくる。

 難なく全部平らげてしまった。

 今思えばこの時得たカロリーが、後に俺の魂が砕けるのを防いでくれた気がするのだ。


 グループに分かれて、全面がガラス張りの観覧席に座って待機する。

 後からわかったことだが、朝の四時半からロケは行われているみたいであった。

 何でも始発の上野駅の風景を撮る為らしい。

 もっとも、それは地元の人のみでおこなったみたいだ。


 やがて、東の空が徐々に明るくなり始め、真っ暗だったレース場の全容が明らかになる。

 なるほど、ここで元S(ピー)の人が走っているのか。

 さすがに今日はレースがないからここにはいないだろう。

 もし、通行人役でこのロケに出てきたらエライことである。


 班ごと順番に呼ばれ、いよいよ出陣と相成った。

 階段を下り、第7券売所へ向かうとなるほど……そこは50年前の世界であった。

 昭和の香りがする看板からベンチ。

 土産の饅頭や弁当、そして新聞を売る屋台に大きなのっぽの古時計。

 おっと、靴磨きやリンゴ売りの少年までいらっしゃる。


 さらに車券売場の窓口は国鉄の切符売り場に変貌して、路線図から料金表までパネルがはめ込まれていた。

 しかも、それぞれがいかにも使い古されたような風情を醸し出している。


 そして忘れてはいけない、日の丸の下に五輪のマーク、そして『TOKYO1964』と描かれた旗。

 でっかいカメラが載ったやぐらや長いマイクを見ると、これぞ撮影現場だと、一人興奮状態になる。ハァハァ!


 しかし、風が強い! 寒い!

 すぐさま新品の軍手を身につける。

 使い捨てカイロをフリースのポッケに入れておいてよかったぜ。


 とりあえず我らエキストラ一行は真ん中に集合して、助監督さんか? アシスタントディレクター、通称ADさんか? が


「おはようございます! 本日はお寒い中お越し下さいましてありがとうございます!」

と挨拶を行う。

 こちらも「おはようございます!」と挨拶を返す。


『携帯電話、スマホ等は電源を切ってください』

『トイレ休憩はないので、隙を見てご自由に行って下さい』

『ただでさえ寒いので、気分が悪くなったら近くのスタッフに声を掛けて下さい』

 後はメールに書かれていた、俳優さんへの声かけや撮影現場緒の写真撮影とかはNG等の説明があった。

 極々、当たり前のことである。


 早速練習、リハーサルのリハーサルとして実際に乗客として駅構内を歩いてみることになった。

 ここで、この俺様にNGの嵐が降りかかる。

 そう、未来からの声で指摘されたところだ。


 練習を前にメイクさんがみんなの衣装や髪、化粧をチェックする。

 ここで俺様に初めてメイクが入る。

 さらにメイクのお姉さんにブラシで髪をとかしてもらう

 Ladyにメイクしてもらうなんて最初で最後だろう。

 なぜなら次に化粧をしてもらうのは死に化粧だからな。


 ここでメイクさんの非情なお言葉。

「その眼鏡……新しすぎますね。撮影の時は外して下さい」

(ノォ~~~~~!)

 そう、実は私、眼鏡派なのである。しかもこの眼鏡、チタンフレームである

 コンタクト? なにそれ? 学生の時に買って次の朝、洗面台の穴に吸い込まれ、下水のゴミと消えましたが何か?


 さすがに、当時最先端の金属がお手軽に眼鏡フレームに使われていたとあっちゃ、どこのオーパーツだよと突っ込まれるだろう。

 とりあえず眼鏡を外して風呂敷包みの中にしまう。

 うむ、やっぱり何も見えん。

 とりあえず人にぶつからなければいいのだ、何とかなりそうだな。


「その軍手もきれいすぎますね。撮影の時はとって下さい」

(ノォ~~~~~!) 

 しかし、メイクのお姉さんはさらなるムチとお言葉で、この俺様に”ご褒美”を下さる。


「あと、着物の下は何を着ていますか?」

「あ、寒いのでフリースを……」

「襟口から見えちゃいますので隠して下さい。あと袖もまくって下さい」

 着物の襟口を締め、仕方なくフリースを半袖状態まであげると……。

「裾もめくりますね」

(ノォ~~~~!)

 メイクのお姉さんは僕の前でかがむと、フリースの裾を膝上までまくり上げて下さいました。


「ちょっと寒いですけどがんばって下さい(ニコッ)」

 オッケ~! ベイベェ! 君のホットなラヴは確かに受け取ったぜ!

 ちなみに、俺の着物は木綿ではなく化繊かせん、ポリエステル100%である。

 スーパーやパチンコ屋さんに立っている旗と同じと思えばいいだろう。

 当然、風が吹けばスースーするのである。

 さらに着物の下は、フリースの裾や袖を膝や肘までめくりあげられた変態野郎の姿である。


 ……ソウルはヒートだが、バディはクールだぜ。

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